久利生公平は型破りな検事である。シーンズ姿、身分を示す秋霜烈日章は、どうしても必要な時以外には見せようとしない。

 01年の連続ドラマから、続編や映画化で、木村拓哉の代表作の1つとなった「HERO」は、ユニークな検事像で人気となった。

 「検察側の罪人」(24日公開)の最上毅は対照的にエリート検事だ。

 久利生が真相究明のために事なかれ主義のお役所体質をごりごり揺さぶったのに対し、最上は自ら信じる正義を貫くために地位を利用する。見かけによらず法律順守にこだわった久利生に対し、最上の方は一線を越えることもいとわない。

 米国のリーガル・サスペンスなら、悪を裁くために手段を選ばない最上も堂々たるHEROだが、日本的な感覚では少なからず後ろめたさやためらいが生まれる設定といえるだろう。木村拓哉のこの「ためらい」が今作の見どころになっている。

 都内で発生した強盗殺人事件。事件を担当する最上は被疑者の1人、松倉に注目する。過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の容疑者であり、その被害者は最上の身近にいた少女だった。松倉にこだわり、警察の捜査にコミットしていく最上に、部下で実際に聴取を担当する新任検事の沖野は違和感を覚える。

 松倉が限りなくクロに見える段階では、スキのないエリート検事に見えた最上だが、その線にほつれが見え始めると、強引さが頭をもたげる。人間としての弱さも垣間見えてくる。

 後半、一線を越えるときの泣きだしそうな顔、震える手…内包していたナイーブな部分が吹き出すような演技は木村の新境地と言っていいのではないかと思う。

 沖野にふんするのが嵐の二宮和也。こちらはまっすぐな演技でコントラストを際立てる。松倉を追い詰める取調室のシーンは、あの童顔で怖いほどの迫力を出す。

 危ない橋を渡る最上を「守護神」のように支える裏稼業の男、諏訪部にふんするのが松重豊。「HERO」の第2シーズンでは、久利生の上司を演じていたから不思議な感じがする。足場の危うくなった最上の周囲で、2人の絡みはホッとさせる。

 原田真人監督が遊び心で用意したさまざまな背景の中でも、2人が密会するバーの巨大な月のオブジェが印象に残る。最上がガヴェル(裁判官の木槌)をコレクションしているのも「審判を下すのは自分」という、ならではの正義感の象徴なのだろう。現代劇を撮るときの原田監督の小道具、大道具は心憎い。

 吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、そして山崎努。個性派が顔をそろえた助演陣では、被疑者・松倉役、酒向芳の怪演に思わず目が行く。【相原斎】