シルベスター・スタローン(72)の出世作「ロッキー」(76年)のシリーズは6年目の第3作で完結するはずだった。その3年後の再開第4作「炎の友情」が蛇足どころか傑作となったのは、スタローンが特別な仕掛けを用意したからだ。

当時の東西雪解けムードを反映し、ロシアから怪物ボクサー、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)が登場。そのドラゴによって、親友となっていた元チャンピオン、アポロがリング上で殺されてしまう。ロッキーによるあだ討ちマッチが終盤のクライマックスとなったわけだが、波乱の第4作は2つの因縁を残した。

アポロの家族の無念は、ロッキーのリング上のあだ討ちだけでは晴らしきれないはずだし、敗北によって名誉とプライドを打ち砕かれたドラゴの怨念も深い。

「クリード チャンプを継ぐ男」(15年)で、アポロの息子アドニスを主人公に、自ら演じ続けるロッキーをコーチ役に、シリーズをつないだスタローンは、その続編となる「クリード 炎の宿敵」(スティーブン・ケイプル・Jr.監督、来年1月11日公開)で、「ロッキー4」の2つの因縁をよみがえらせている。

スタローンは「人生はめぐりめぐるものだと信じている。ドラゴが屈辱的な敗北を喫した後、旧ソ連でどんな人生を送っていたのか。思いめぐらすことによって今回の物語が始まった」と振り返っている。

冒頭に登場するドラゴの暮らしぶりは想像以上に厳しい。用心棒のような仕事で食いつなぎ、希望はストリート・ファイトのような草ボクシングでめきめき力を付けてきた息子のヴィクターだ。ここまでくれば、もう展開が見えてしまうのが、良くも悪くもこのシリーズの特徴だが、前作でチャンプとなったアドニスとこのヴィクターの、それぞれの父の因縁を引き継いだ戦いが本筋となる。

戦いに至る曲折に工夫があり、そこが見どころなので詳述は避け、ほんの一部を紹介する。いろいろあってもろい一面を見せたアドニスが、再び本能を目覚めさせるボクサー版「虎の穴」。投げかけられるセリフは「お前は野獣だ!」。どこかで聞いたことがありそうな劇画的な魅力がふんだんにまぶされていて、飽きさせない。

アドニス役でブレークしたマイケル・B・ジョーダンは、製作からプロダクション経営まで活動の幅を広げる知性派だが、この作品では弱さやもろさも巧みに演じている。

アマチュア・ボクサーからヴィクター役に抜てきされたフロリアン・ムンテアスは目力があって硬派のイケメン。今後の注目株だ。スタローンは女性客もしっかり意識している。

「ロッキー4」でドラゴの妻役を演じたブリジッド・ニールセンが同じ役で登場。今回は落ちぶれたドラゴ親子を見捨て、ロシア政府幹部の妻におさまっている設定だ。「救いのない氷のような冷たさ」を怖いほどに表現。セリフは無いが、脳裏にしっかり焼き付く存在感で、元夫スタローンのライフワークに再び強烈なアクセントを残している。

客をひきつけ、飽きさせないためには何をすべきか。この作品にはスタローンのエンタメ魂が詰まっている。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)