韓国映画界のくせ者3人が思いっきり個性を立て、角突き合わせた怪作だ。

「ただ悪より救いたまえ」(24日公開)は、元諜報(ちょうほう)員の暗殺者が誘拐された娘を救うため、巨大な裏組織に戦いを挑む物語だ。

「96時間」(08年)をほうふつとさせる設定だが、この暗殺者に恨みを抱き、執拗(しつよう)に追い掛ける殺し屋も登場、暴走する2人の跡には死体の山が築かれる。そして、主戦場となるタイ・バンコクでは、暗殺者の協力者としてニューハーフの女性が絡んでくる。

職務に忠実なあまり組織から疎まれ、捨てられた元諜報員インナムにふんするのはファン・ジョンミン。同じ16年に「コクソン 哭声」の怪しい祈とう師と「アシュラ」の極悪市長を演じ分けたインパクトは記憶に新しい。今回はある意味「生真面目男」の役作りだ。ひたすら実直に職務をこなす。情報を得るために表情を変えずに関係者の指を切断していくところが怖い。

インナムに兄を殺され、ひたすら彼を追う殺し屋レイを演じるのはイ・ジョンジェ。こちらも二枚目から「神と共に」シリーズ(17~18年)の閻魔(えんま)大王までウイングの広さではひけを取らない。今回はアンコウのつるし切りのように腹を割く狂気の殺し屋だ。泳ぐようにやや上を見る目がすごい。次の行動を読ませない一拍おいた殺気がひしひしと伝わってくる。

そしてひょんなことからインナムの協力者となるニューハーフのユイはパク・ジョンミン。「空と風と星の詩人」(16年)で新人賞を総なめにした若手実力者がしれっと「女心」を好演している。らしい立ち姿、時折のぞかせる「男」。そして秘めた純心…。殺気立った展開の中で、ホッと息をつかせてくれる貴重な存在となっている。

物語のカギとなる東京パートでは豊原功補や白竜も顔を見せ、作品の奥行きを広げる。「チェイサー」「哀しき獣」などの脚本を担当してきたホン・ウォンチャン監督はスタッフや出演者と入念な意見交換をしながら撮影を進めたそうだ。くせ者3人が思いっきり個性を開放しているように見えるのはその演出法のゆえかもしれない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

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