ロックレジェンドの1人、ギター奏者のエリック・クラプトン(78)がロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行った延べ42回のライブ・シリーズは、脂ののりきった40代半ば、激しすぎた私生活が一時の静寂を得た時期の貴重なパフォーマンスだ。

「エリック・クラプトン アクロス24ナイツ」(9日公開)は、当時のライブ映像から16曲を選び抜いた彼の人生のベスト版と言える。

オーケストラとの共演、4人編成、ホーンセクションを入れた13人編成と主に3パターン。クラプトンはひょうひょうと、しかし圧倒的なギター・テクを見せ、いい感じに肩の力の抜けたボーカルを披露する。

1曲目の「クロスロード」はオーケストラとの競演。この曲の生みの親ロバート・ジョンソンに敬意を表するようなブルースの原点的なギター演奏からしだいに盛り上がる演出だ。

クラプトンのギターに熱が入るに従って、オーケストラの年かさメンバーまでがノリノリになっていく様子が映し出され、いきなりワクワクさせてくれる。

そんな調子で選曲も演奏も決してしゃちほこ張った感じにならずにクラプトンらしい自然な感じが最後まで心地よい。

アルバート・コリンズやバディ・ガイが登場するブルース色の濃い中盤が一番の見どころだ。アクの強いメンバーの中で、高度な技術をさらりと披露するクラプトンがかっこいい。弦を押さえる左手が爪先までつるんときれいなことに気付かされる。

終盤にはやはり「いとしのレイラ」。ギターのヘッドストックに吸いかけのたばこを挟んだお決まりスタイルが懐かしい。

この曲はジョージ・ハリスンからの略奪婚だったパティ・ボイドにささげたことで知られるが、そのボイドともすったもんだの末に、このライブを始める前年の89年に別れている。一方で、その離婚の原因となったイタリア人モデル、ロリー・デル・サンドとの間にもうけた当時4歳の息子コナーはライブシリーズが終わった直後の91年3月に高層アパートから転落死してしまう。

つまり、この映画に収録されたライブの期間は、波乱だらけのクラプトンの半生の珍しい凪の期間に当たるのだ。

全盛期のこの貴重な映像からは、彼が心底音楽を楽しむ様子が随所ににじみ出ている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)