いよいよ今週末はアカデミー賞の発表です。

 世紀の作品賞誤発表から1年。今年で90回目を迎える今年のアカデミー賞は27日に投票が締め切られ、3月4日にハリウッドのドルビー・シアターで授賞式が行われます。

 「シェイプ・オブ・ウォーター」と「スリー・ビルボード」の一騎打ちが予想されていますが、セクハラ問題に揺れる中、その影響にも注目が集まる今年のオスカーの予想と共に注目作品を紹介します。


●「シェイプ・オブ・ウォーター」

 作品賞、監督賞、主演女優賞など最多が13部門にノミネートされている同作は、ベネチア国際映画祭の最高賞にあたる金獅子賞を受賞している他、放送映画批評家協会賞作品賞にも輝くなど、オスカー最有力候補として注目されています。また、ゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞ではギレルモ・デル・トロ監督が監督賞を受賞しており、全米映画批評家協会主演女優賞に輝いたサリー・ホーキンスの主演女優賞と共に最多受賞の期待も。

 本作は米ソ冷戦時代の米国を舞台に政府の極秘研究所で清掃員として働く口がきけない女性とそこで出会った不思議な生き物の切なくも愛おしい愛を描いたファンタジー。種族を超えた者同士が心を通わせるストーリーは多くの人を惹きつけていますが、投票を目前に控えた先週、本作が60年代に書かれた舞台劇の盗作だとして訴えられるハプニングが勃発。デル・トロ監督は全面否定していますが、これが投票結果にどう影響を及ぼすのか業界全体が注目しています。

●「スリー・ビルボード」

 作品賞、脚本賞、そしてフランシス・マクドーマンドの主演女優賞、サム・ロックウェルの助演男優賞の受賞にも期待が持たれる同作は、ベネチア国際映画祭では作品賞を逃したものの、メガホンをとったマーティン・マクドナー監督が脚本賞を受賞。また、ゴールデン・グローブ賞では作品賞や脚本賞、主演女優賞など最多4部門を受賞していますし、オスカーの前哨戦として知られる全米俳優組合(SAG)賞では作品賞に当たるキャスト賞、主演女優賞、助演男優賞の3冠を達成。勢いに乗ってこのままオスカーを手にする可能性も充分ありそうです。

 同作は田舎町を舞台に娘を殺された母親が、警察の捜査が一向に進まないことに怒り、道路沿いに3つの巨大看板を設置することから物語が始まります。物語は複雑に絡み合い、予想もしない方向へと展開していきますが、ダークユーモアがたっぷりのため、賛否両論もあります。14日に起きた17人の犠牲者を出したフロリダ州銃乱射事件を受け、この作品からアイデアを得た銃規制を訴える3枚の看板が登場するなど社会的な影響力も強まっている中、権力に1人で立ち向かう強い母親像がどこまでアカデミー賞会員にも支持されるかがカギになりそうです。

●「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

 英国の政治家ウィンストン・チャールズを演じた名優ゲイリー・オールドマンは、SAG賞主演男優賞やゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞などを総なめにしており、主演男優賞の最有力候補。30年以上に渡る功績が認められ、初のオスカーを手にするのか期待されています。

 同作はチャーチル首相の就任からダンケルクの戦いまでの知られざる4週間を描いた歴史ドラマで、第二次世界大戦初期を舞台に英国にも侵略の脅威が迫る中、ヒトラーとの和平交渉か徹底抗戦か、究極の選択を迫られる実話を基にした傑作です。チャーチル首相になりきったオールドマンの演技もさることながら、その脅威のビジュアルを実現させた辻一弘氏のメイクアップ賞の受賞にも期待です。

●「レディ・バード」

 ゴールデン・グローブ賞では作品賞の他、シアーシャ・ローナンが主演女優賞を受賞。アカデミー賞では作品賞や監督賞、主演女優賞など5部門にノミネートされています。女優で映画監督でもあるグレタ・ガーウィングにとって初の長編映画の監督作となった本作で、「ハート・ロッカー」で監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー監督以来となる女性監督史上2人目の受賞も期待されています。

 自らを「レディ・バード」と呼ぶ閉塞感ある片田舎に暮らす女子高校生の将来の悩みをユーモラスに描いた同作で主人公を演じるアイルランド出身のローナンは、13歳でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた実力派若手女優。映画批評サイトで最高評価の新記録を樹立した話題作だけに、どこまで賞レースに食い込むことができるか期待です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)