劇団四季ミュージカル「キャッツ」が先日、上演回数1万回を達成した。1983年11月の日本初演から35年と4カ月かかったが、1万回は同じ四季ミュージカル「ライオンキング」(98年初演)が4年前にすでに達成している。

上演回数では「ライオンキング」に次いで2位の「キャッツ」ですが、日本にロングランミュージカルを定着させた最大の功労者はやはり「キャッツ」でしょう。「キャッツ」以前の日本のロングランは劇場の関係もあって、せいぜい2、3カ月でした。ところが、「キャッツ」は劇団四季が専用の仮設劇場「キャッツ・シアター」を東京・新宿に建設し、1年ものロングランを成功させたのです。

その後も「キャッツ」は全国各地で上演され、東京に帰ってくるたびに、劇場に足を運んできました。もう50回は見ているかもしれません。初演で山口祐一郎、飯野おさみ、保坂知寿、野村玲子、久野綾希子らが出演していました。その後、市村正親、川崎麻世らも出演しましたが、印象に残っている俳優といえば、「メモリー」を歌うグリザベラを演じた志村幸美さん、優しくて陽気な掃除おばさん猫ジェニエニドッツを20年以上も演じた服部良子さんでしょうか。それというのも、2人ともにすでに亡くなっているからです。

志村さんは98年に肺がんのため39歳の若さで亡くなり、服部さんも食道がんで07年に55歳で亡くなりました。志村さんは湘南の霊園に眠っていますが、墓には「劇団四季 キャッツ主演女優 志村幸美」と刻まれているそうです。服部さんは31歳だった初演の時からジェニエニドッツ役のみを演じ続け、04年には4000回を達成しました。がんを発症した後も「キャッツ」に出演を続け、最終的な出演回数は4251回です。この記録は今も破られていませんし、世界的にも最多出演回数でしょう。

「キャッツ」が初演された83年には、東京ディズニーランドも開園しています。日本のエンターテインメントの歴史を大きく変えた「キャッツ」と「ディズニーランド」が同時期に日本に誕生したのも、時代の必然だったかもしれません。今は世界初演されたロンドンでも、ブロードウェーでも上演されていません。「キャッツ」の実写映画版の製作が進み、今年12月にも米国で上映される予定ですが、生の「キャッツ」を見ることのできる幸せを享受できるのは、日本だけです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)