19日にミュージカル「レ・ミゼラブル」(帝劇)と「ユタと不思議な仲間たち」(自由劇場)が幕を開けた。これで、都内・横浜で上演中のミュージカルは、劇団四季「キャッツ」「ライオンキング」「アラジン」「パリのアメリカ人」をはじめ、日生劇場「笑う男」、東京宝塚劇場の花組公演「CASANOVA」、東急シアターオーブ「キンキブーツ」、音楽劇のシアタークリエ「ライムライト」、20日には四季の新作ファミリーミュージカル「カモメに飛ぶことを教えた猫」の全国公演が始まり、明治座の音楽劇「銀河鉄道999」も初日を迎える。

30年前の平成元年4月の都内の主要劇場の上演演目を見ると、ミュージカルは帝劇「王様と私」、東京宝塚劇場の花組公演「会議は踊る」、四季の日生劇場「オペラ座の怪人」ぐらいしかなかった。平成はミュージカルが広く浸透し、演劇の中心となった時代と言えるだろう。その先鞭(せんべん)をつけたのは、まだ「昭和」だった83年の「キャッツ」1年ロングランであり、87年の「レ・ミゼラブル」の5カ月ロングランだった。「キャッツ」は専用劇場を作り、「レミゼ」は出演者を全役オーディションで決め、9カ月の訓練期間を経て上演された。

「レミゼ」も当初はメーン出演者に鹿賀丈史、滝田栄、岩崎宏美、島田歌穂、斉藤由貴、野口五郎、鳳蘭らスターが顔をそろえたが、上演を重ねる中で、作品力がファンに熱く支持され、スターに頼らないキャスティングが可能となった。「レミゼ」に出演することを目標にする俳優も増えた。今回の新加入は、ジャン・バルジャンに佐藤隆紀、ジャベールに伊礼彼方、エポニーヌに屋比久知奈、コゼットに熊谷彩春、ファンテーヌに浜田めぐみ、テナルディエーにトレンディエンジェル斎藤司ら。満を持した人、意外な人、フレッシュな人と、多彩な顔ぶれになった。

19歳の熊谷は史上最年少コゼット。3歳の時にロンドンで「レミゼ」を見て、家でレミゼごっこをして遊んだという。小学5年から子役として活動。劇団四季「サウンド・オブ・ミュージック」などに出演した。屋比久は沖縄出身で、琉球大在学中の16年に帝劇の「集まれ!ミュージカルのど自慢」で最優秀賞を受賞。17年公開のディズニー映画「モアナと伝説の海」のオーディションで主人公モアナ役の声優に抜てきされ、劇中歌の日本語版も歌った。

浜田は四季時代を含めて、華麗なキャリアを誇るが、今回のファンテーヌ役には驚いたファンも多かった。しかし、浜田は「自分が天国に行く時に後悔したくないと思った」と、決意がぶれることはなかった。いつかミュージカルをとの思いを持っていた斎藤は、オーディション開催を知って、ダメ元で「仕事が自分を成長させると思って」受けたという。「レミゼ」はメーンの役がトリプルになっているため、何十通りもの配役を楽しむことができる。それも「レミゼ」の魅力の一つだろう。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)