新宿の紀伊国屋ホールに懐かしい顔ぶれが並んだ。25日に開催された「劇団つかこうへい事務所 一夜限りの大同窓会」と題したイベントで、82年につかこうへい事務所を解散するまで、劇作家で演出家のつかこうへいさんのもとで活躍した風間杜夫(74)平田満(70)根岸季衣(69)岡本麗(72)石丸謙二郎(70)酒井敏也(64)井上加奈子(70)に進行役の脚本家長谷川康夫さん(70)が登壇した。

2010年に62歳で亡くなったつかさんの82年から87年までの日々を描いた「つかこうへい正伝2 1982ー1987知られざる日々」(大和書房)の刊行を記念したもの。9年前に長谷川さんは68年から82年までのつかさんを描いた「つかこうへい正伝」を出版したが、今回は解散前後に放送されたドラマ収録の現場や85年に韓国ソウルで「熱海殺人事件」を上演した時のつかさんなど、最も近くにいたからこそ真の姿が描かれている。

大同窓会では、80年に紀伊国屋ホールで上演された「いつも心に太陽を」のダイジェスト映像が上映された。当時は30歳前後だった風間、平田が上半身裸で汗をほとばしらせながら熱演する姿に、風間は「懐かしさに泣けてくる。しなやかな肉体にほれぼれする」と笑えば、平田は「穴があったら入りたい」と照れた。

つかさんならではのエピソードも紹介された。石丸が風邪をひいた状態で稽古場にいた時、つかさんに「出ていけ!」と言われたものの、出ていかなかった時、「じゃあ、おれが出ていく」とつかさんが稽古場を後にした思い出を話した。役者オーディションを行った時、3000人を超える応募があったが、最初に届いた書類が酒井のものだった。同封されたカセットテープの酒井独特の声を、つかさんがすっかり気に入り、即決したという。

大同窓会と銘打ったが、プライベートではよく会っているという。石丸は「こんなに仲のいい劇団はない。ほかの劇団の人からは気持ち悪がられています」。イベントの最後に風間は「あの時代はかけがえのない時間だった」と振り返った。それは客席でつかさんの舞台に胸を熱くした数多くのファンの思いと重なるだろう。【林尚之】