ニッポン放送の伝説的ラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」(81~90年、木曜深夜午前1時)のヘビーリスナーだった筆者にとって、平成元年、つまり89年7月(=7月20日だったか27日だったか正確な日付は忘却)に同番組生放送で勃発した“伝説のブチキレシーン”は当時、かなりの衝撃だったことを今でも覚えている。

その日、某海岸近くでテントを張って野宿的なことをしていたのだが、木曜夜だったので午前1時まで眠るのを我慢し、いつものように、イヤホンを装着して携帯ラジオの周波数をニッポン放送の「1242」に合わせた。

その回のゲストは当時49歳の内田裕也さんだった。たけしは当時42歳。あぶらが乗った2人の“天才”がどのようなギリギリトークをするのか興味津々だったが、午前1時のオープニングの直後、ラジオからえんえん聞こえてきたのはたけしの声ではなく、裕也さんのすさまじい怒声と息づかい(※確か「コノヤロウ」みたいな、怒りを表現する音声だったが正確にはこれも忘却)と、「ボコッボコッ」「ドカッドカッ」みたいな、恐らく裕也さんがブチ切れてスタジオで暴れていると推察される異様な音だった。

当初、何が起きたのかさっぱり分からなかったのが、一定時間裕也さんの怒声や、たけし軍団メンバーかスタッフと思われる人が「すいません」みたいに謝るような声、そして何らかの物音が流れるという壮絶な“放送事故”的状況が続いた後、CMに。

CMがあけた後、たけし軍団メンバーが、神妙な様子でたけしが番組を突然休んだことをリスナーに説明し(※たけしは当時、しばしば同番組などを突然休むことがあった)、裕也さんに謝罪したことで、ようやく状況が見えてきた。裕也さんをゲストによんだにもかかわらず、メインパーソナリティーのたけしが欠席したことで、裕也さんがブチキレたと思われた。

CMあけに裕也さんは落ち着き、息を荒らげつつもたけし軍団メンバーの謝罪を受け入れ、「たけちゃん、頼むよ」(※これも正確なワードは忘却)みたいなコメントをして、前代未聞の深夜放送「生ブチキレ」は収束したと記憶している。

「ビートたけしのオールナイトニッポン」はかなりの回数カセットテープに録音して保存していたのだが、その回はテントで聴いたため、録音できなかったのが今も悔やまれる。

真夏の深夜、テントの中で携帯ラジオを握りしめつつ、仕事に本気で取り組む裕也さんのすごみと、「プロ」が激怒した時の迫力を知り、明け方まで「すごいものを聴いてしまった」と興奮して眠れなかった。さまざまなハプニングが起きた「たけしのオールナイト」だったが、群を抜いたインパクトの一夜だった。

あらためて、心よりお悔やみ申し上げます。

【文化社会部・Hデスク】