先日の昼間、自宅のドアホンが「ピンポーン」と鳴ったので宅配業者かと思い、モニターを見てみると、そこに映っていたのは警察官の制服を着たいかつい男性。

思いあたる節はなくとも、自宅にいきなり警察官が来たら妙にドキッとする。何らかの事件関係者だと思われたのか、あるいは近隣で事件が起きたのか、はたまた何らかの勘違いによる“家宅捜索”か…などと勝手な想像をめぐらしつつ「はい」と応答すると、「○○警察のものですが…」と言うのですぐ玄関に行き、ドアを開けた。




ドアホンが鳴る。あわててモニターを見てみるとそこに映っていたのは…
ドアホンが鳴る。あわててモニターを見てみるとそこに映っていたのは…



直接対面すると、その男性は改めて「○○警察の○○です」と所轄署の署員であることを名乗った。「何か事件でもありましたか?」と聞くと、事件でも家宅捜索でもなく、定期巡回連絡業務でベルを押したという。

交番などに勤務する地域警察官が、管轄地域の家やマンションを訪問して、犯罪予防の話をしたり、付近で何か問題があるか聞いたり、災害時などに使う家族や連絡先などが記される「巡回連絡カード」のようなものを作成する…などの業務である。

筆者の場合、現在居住するマンションでは、そのような形で警察が訪問した際に在宅していたことは今までなく、以前居住していたマンションでも1回あっただけなので、警察官が訪問してくる巡回連絡業務というものがあるとは知ってはいても、やはり少々、驚いてしまう。

近所の治安事情などについて少々雑談をかわしたところで、丁寧な口調と物腰柔らかい態度のその男性は、筆者に対し「何か災害や大きな地震があった時などにすぐ連絡がとれるようにするために、巡回連絡カードにご記入をお願いしているのですが、よろしいでしょうか?」と聞いてきた。

カードを見ると、氏名、生年月日、住所、電話番号、家族名、緊急連絡先のほか非常連絡先電話番号などさまざまな個人情報を書き込む欄があった。

一瞬、思わず、深く考えずに個人情報を記入しそうになってしまったのだが、いったん冷静になり、ちょっと待てよ…と書くのをストップした。

物騒な世の中、地域の安全を保つ活動に協力したい気はある。警察の地域活動にむやみに反発するつもりもない。ただ、「アポ電」強盗事件や各種振り込め詐欺など、相手をたくみにダマして「個人情報」を聞き出す悪質事件が今も相次ぎ、より巧妙化しており、「自分だけはだまされない」と思っている人が、あっさりだまされたりする時代である。

目の前にいる人はかなりの高確率で本物の「○○警察署の警察官」だと思われたが、ひょっとしたら「警察官を装って、巡回連絡業務を演じて、個人情報を丸々聞き出そうとしている人」である可能性も、このご時世、絶対にゼロだとは言い切れない。

そこで恐る恐る、この「警察官」に「あの~、巡回連絡カードに記入したい気はやまやまなのですが、今、アポ電や各種詐欺など、どこに“だまし”の落とし穴があるか分からない時代で、警戒しすぎるに越したことはない、とよく言われますので、本物のお巡りさんだとは思いますし、強く疑っているわけではないですし、私自身が怪しい者のため記入を避けているわけではまったくないのですが、万が一『巡回警察官を装って個人情報を聞き出そうとしている人』などの可能性も絶対ないとは言えないじゃないですか。そんなわけで本日はいったん、巡回連絡カードに個人情報を書かなくても、大丈夫なのでしょうか? もしどうしてもすぐ書かないと許されないのであれば、考えますが…」みたいな趣旨のことを丁重に相談してみた。

「疑い深いやつだ、何かおかしいぞ」とか「さては、犯罪に関与している人間では」などと思われることを当然想定したが、その「警察官」は表向きは嫌な顔をしたり、無理に記入させる感じは一切なく、むしろ好意的な笑顔になって「いやいや、おっしゃる通り、今の時代、そのように何ごとも疑ってみる姿勢は非常に大切ですよ。そこまで真剣に詐欺などを警戒される『防犯意識』の高さは、とても良い、素晴らしいことだと思います。なので本日は、巡回連絡カードに個人情報を記入しなくて大丈夫ですよ。またゆっくり、考えておいてくだされば、大丈夫ですから」などと返答。意外にも全面的に“ほめて”いただき、やりとり終了となったのである。

ここ3年間くらい誰からもほめられていないので一瞬うれしくなってしまったのも事実だが、すぐ「いや、待てよ。この男性、今回はいったん筆者の相貌を確認だけし、あとはほめて油断させておいて、次回に本気で個人情報収集にくるのではないか」とまで頭のどこかで邪推を始めてしまった自分自身が、いいかげん、嫌になってきた。

次回、「警察官」が自宅に来るまでに、どうするか考えておくことにする。

【文化社会部・Hデスク】