「白雪姫」「ヘンゼルとグレーテル」…ナポレオン支配下のドイツで編さんされたグリム童話に代表されるように、メルヘンの原型はたいてい人生の残酷さを映している。21世紀のシヴォーン・ダウドの児童文学もそんな歴史を受け継いでいて、怖いくらいだ。一番弱いところを突いてくる。

 コナー少年は両親の離婚で母親と2人暮らし。学校ではいじめに遭い、病気の母親は日に日に衰える。物語を作り、その世界にひたるのが唯一の楽しみになっている。そんな彼のもとに毎夜巨大な怪物が訪れるようになる。怪物は「3つの物語を聞かせるから、4つ目を話せ」と迫る。

 怪物の話には夢があり、毒がある。現実世界で訪ねてくる祖母や父の優しさと疎ましさが重なる。そして母親の病状の先には「死」が見えてくる。少年が語らなくてはならない話とは…。克服すべき残酷な現実が突きつけられる。

 怪物役はリーアム・ニーソン、母親は「ローグ・ワン」のフェリシティ・ジョーンズ、祖母はシガニー・ウィーバーと隙がない。周囲の名演を映す少年役ルイス・マクドゥーガルの瞳が強調される。メリハリのある構図が素晴らしい。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)