菅田将暉(27)と有村架純(27)が主演、91年「東京ラブストーリー」をはじめ名作連ドラを多数、手掛けた脚本家・坂元裕二氏の、ラブストーリーとしてはオリジナル作品で初の映画脚本…こうした文言が並ぶと、スペシャルでキラキラな恋愛映画に見えるかも知れない。でも、この映画はそうではない。あらゆる年代の男女が過去の恋愛を顧み、主人公に自らを重ねるであろう、どこにでもある普通の恋愛の物語である。

都内の京王線明大前駅で終電を逃したことから偶然、出会った21歳の山音麦(菅田)と八谷絹(有村)は、音楽や映画などの好みが不思議なほど一致し、恋に落ちる。同居を始め、大卒後はともにフリーターになり、気ままで穏やかな日々を送る。ただ、生活を現状維持させるために互いに就職し、現実が見え始めてから2人はすれ違っていく。

独白を折り重ねることで、折々の心の距離感はもちろん、1つの事象に対する男女の考え方の違いまで浮き彫りにする。だからこそ、リアリティーがあり、自分事として考えてしまう。土井裕泰監督は前作「罪の声」のような骨太な作品とは正反対の恋愛ものでも、その手腕を存分に発揮する監督だ。そのことは「多幸感を覚えた」という声が試写後、幾つも聞こえてきたことからも明らかだろう。【村上幸将】

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