冒頭から描かれる仮想世界<U(ユー)>の世界観と造形の緻密さ、美しさに目を奪われる。その壮大なインターネット世界に分身「As(アズ)」を作り、集う人々の心の機微を、丁寧に描く物語に心も奪われ、没入できた。

主人公すず(声・中村佳穂)は幼少期に母を事故で亡くし、大好きな歌を歌えなくなったが50億人が集う<U>の中に作った「ベル」としては歌うことができた。高い歌唱力とインパクトのある楽曲で瞬く間に歌姫となり、コンサートを開くが大勢から忌み嫌われる乱暴者・竜(声・佐藤健)にめちゃくちゃにされる。ただベルは竜が抱える傷を知りたいと歩み寄り、竜もベルの優しさに心を開く。

一方で、2人を取り巻く<U>では、誹謗(ひぼう)中傷やAsの裏にいる実際の人物を探す行為も横行する。そうした現代社会におけるインターネット上の諸問題を盛り込みつつも、すずらを通してインターネットの良い面を明確に打ち出す。6日の会見で「25年くらいしかたっていないインターネット世界と現実の関係性を映画に、しかも肯定的に描く監督は恐らく世界で僕1人。インターネットと現実の関係性が、すごく面白いと思っている」と語った、細田守監督(53)の言葉に偽りはない。【村上幸将】

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