来日中の韓国有力政治家が都内のホテルから韓国中央情報部(KCIA)によって拉致される-「金大中事件」は当時高校生だった私にとっても衝撃だった。金氏はその後も幾度かの逮捕、投獄の苦境を乗り越えて、事件から24年後に大統領に就任した。

理想家肌の金氏は圧倒的に不利な状況からいかにして大統領の座を手に入れたのか。きれい事ばかりで済むはずがなく、そこには「鬼才」と呼ばれた選挙参謀、厳昌録という人がいたことをこの作品で知った。金、厳両氏をモデルにした選挙の裏側はエグい。

「1票を得るより相手の10票を減らす」という参謀チャンデ(イ・ソンギュン)の戦略は、夢を語る野党の星ウンボム(ソル・ギョング)の個性と対極だが、独裁政権打倒の共通目標が2人をつなぎ留めている。

ビョン・ソンヒョン監督はセピアな色調で実録風に描く。情報機関の総力を挙げた相手陣営に対し、その圧倒的な物量戦を逆手に取って庶民感情をくすぐるチャンデの手腕に、そのテがあったかと感心させられる。理想のためなら「影」になりきれるのか。「パラサイト 半地下の家族」のソンギュンの、時に悲しそうに見える目に引き込まれた。【相原斎】

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