最愛の妻を亡くした初老の男は、生来のしゃくし定規な性格が高じ、気むずかしいと近所から煙たがられている。実は妻の後を追おうと自殺を企てている。

そんな時、底抜けに明るい一家が隣家に越してきた。メキシコ出身の主婦は面倒を持ち込んだり、やたらにおせっかいを焼く。最初は迷惑に感じていた男だが、彼女のポジティブ思考に押され、いつの間にか生きる意味を見いだしていく。

人情喜劇の定型のような物語だが、トム・ハンクスが演じるから味わい深い。量販店でロープを買い、自殺の準備を進める様子は、まるで日常生活の一部のような表情で、揺るがない決意が伝わってくる。

転じて、妻との回想シーンは思いっきり湿っぽい。「ネバーランド」のマーク・フォスター監督は対比を際立てる。青年時代を俳優未経験のトムJr、トルーマンが演じ、純朴さが効いている。父の面影だらけだから、つながりも完璧だ。

主婦役はメキシコのコメディー女優マリアナ・トレビーニョ。振り幅の大きな演技が抑え気味のハンクスと好対照で、そのやりとりは何とも楽しい。深刻な場面もユーモアにくるまれ、最後はホロッとさせられる。【相原斎】

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