東京五輪のため来日した東アフリカ・ウガンダ代表選手団9人のうち、成田空港で1人が新型コロナウイルス陽性と判定されたにもかかわず、他のメンバーが濃厚接触者がどうかを認定せず、事前合宿地の大阪府泉佐野市に移動させた問題で、参加国の選手団を受け入れる「ホストタウン事業」を担う各地の自治体の担当者にショックと不安が広がっています。

「濃厚接触者の判定もされずにホストタウンに来たということを聞くと、『ちょっと待ってよ』というのが正直な感想です」。関西地区で代表選手の受け入れを担当する市職員は「信じられない」「驚いた」という言葉を何度も繰り返しながら不安を訴えます。

フランスの柔道選手らを受け入れる姫路市の担当者は言います。「入国する選手は陰性が大前提。もし陰性の方の中に陽性の方がいるかもしれないとなると、対応がまったく違ってくる」。当初、フランスからの柔道選手団は一団で来日予定でしたが、階級別に数グループに分かれて来日したいとの要望がありました。柔道は階級別で決勝日が異なり、重い階級は競技日程の後半になります。東京での最終調整が不透明な部分が多いという理由で、体重が重い選手はフランス国内でギリギリまで調整し、日程をずらし、姫路入りしたいとの意向です。

「できる限りベストの調整をやってもらいたい。日程も含め、移動や感染対策など最終的に詰めている段階です」と担当者。一方で「陰性の方に陽性に方がいるかもとなると…」と水際対策に不安を募らせています。

兵庫県豊岡市の城崎温泉近くにある「円山川城崎漕艇場」では、ドイツとスイスのボート代表チームが練習で訪れる予定。ドイツは2日、スイスは7日に豊岡入り。ドイツチームは約70人、スイスチームの人数は未定です。

ウガンダ選手団の大阪入り以降、ホストタウンに“余波”が広がっています。豊岡市には「五輪の選手団はいつ来るのか」「市民が接触することはあるのか」などの問い合わせが続いています。豊岡市では新型コロナウイルスの新規感染者は5月下旬から「ゼロ」。同市の担当者は「現時点で交流事業などの計画もなく、市民と選手は接触する機会はありませんと説明しています」と話します。

東京五輪では各国から来日する選手は1万人超とされ、海外からの関係者の数を大幅に削減したものの、約4万1000人に上るとされます。

政府は当初、ウガンダ選手団と同様に空港検疫で陽性者が確認された場合でも、ホストタウンの受け入れ責任者が保健所と連携し、濃厚接触者を調査するようにと説明していました。ところが政府の対応に批判に集まり、濃厚接触の疑いがある同行者は空港内で特定する措置をとる方向で調整中との情報もあります。

ある自治体のホストタウンの担当者は「国からの情報がまったく降りてこない」と不満の声を上げ、「細かいことですが」と前置きし、「ワクチンを打ったら濃厚接触者にはならないという国もある。日本ではワクチンを打っていても濃厚接触者に認定される。そこを整理してもらわないと、保健所の負担になる」と指摘します。

さらに続けて「濃厚接触者に認定すると、14日間の隔離が義務付けられる。これは選手にとっては最後通告になる。来日しても出場できない選手も出てくる。こんな非情な通告を保健所の判断でやるのはあまりにも酷ではないですか」と憤りを隠せません。

泉佐野市ではウガンダ選手団以外にも「濃厚接触者」が認定されています。成田空港から泉佐野市へ選手団を乗せた貸し切りバスの運転手、添乗員の4人、出迎えに行き、同乗してきた泉井佐野市の職員3人が濃厚接触者と特定されました。

泉佐野市のホストタウンを担当する職員は4人。選手団の受け入れの中心となってきた3人が濃厚接触者となり、自宅待機となっています。市は別の職員でカバーするなど臨戦態勢です。自宅待機の3人はリモートで応援の職員にアドバイスを送っているそうです。

対応に追われる泉佐野市の職員の1人はポツリと漏らしました。

「想定外です」。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)