将棋の最年少5冠、藤井聡太竜王(竜王・王位・叡王・王将・棋聖=19)の地元・愛知に東京の将棋会館、大阪の関西将棋会館に続き、公式戦を行う常設の対局場としては3つ目となる「名古屋将棋対局場」が新設されました。トヨタ自動車が名古屋駅前に建つ複合商業施設「ミッドランドスクエア」25階(約120メートル)の会議室フロアの100畳超の一室を無償貸与。藤井竜王の活躍などで、大師匠(師匠の師匠)にあたる故板谷進九段の悲願「東海地方にタイトルを」「名古屋対局場」の2つを実現しました。実は、大師匠には3つ「悲願」があったそうです。

6月22日、名古屋将棋対局場の「こけら落とし対局」では、順位戦A級、藤井竜王、佐藤康光九段(52)戦、順位戦B級2組の杉本昌隆八段(53)佐々木慎七段(42)戦が行われました。藤井竜王の師匠・杉本八段は初手を指す前に「いろいろなことを考えました。一緒に藤井5冠とともに対局できたのは感慨深かった」。47歳で志半ばで急逝した自らの師匠・故板谷進九段に思いをはせていました。

「生前は名古屋に将棋会館をと。もしお元気でしたら、名古屋に公式戦を行う常設の対局場ができたことを、心から喜ばれるでしょうね」

20年6月、藤井竜王は史上最年少で棋聖のタイトルを奪取し、「東海地方にタイトルを」の悲願は、すでに達成していました。

杉本八段は「おそらく師匠の思いは、対局場の新設があり、その先にタイトルがあったと思うけど、順番が逆になった(笑い)」。

板谷一門の悲願は少しだけ後先が逆になったようですが、大師匠の2つの悲願は“孫弟子”が圧倒的な活躍で、かなえました。

3つ目の「悲願」があったといいます。名古屋市在中の杉本八段は「東海地区に住む棋士を増やすこと。『勉強ができる環境をつくって、棋士を増やしたい』。それが師匠の悲願でもあった」。杉本八段、愛知県瀬戸市在住の藤井竜王を含め、東海地区に住む棋士は5人。名古屋に対局場→東海在住の棋士を増やす→その中から最強の棋士が生まれ、タイトル奪取-。先に5冠を保持する最強の棋士が誕生しましたが、「東海地区在住の棋士を2ケタ、10人以上に増やしたい」と杉本八段。大師匠の3つ目の「悲願」は弟子、孫弟子たちに引き継がれます。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)