大阪出身の星組トップ紅(くれない)ゆずるが、新年最初の本拠地作「霧深きエルベのほとり」で、べらんめえ口調の船乗りにふんしている。菊田一夫氏の書き下ろし作は、63年の初演から再演が重ねられており、今回は36年ぶり再演。ショー「ESTRELLAS~星たち~」と2本立てで、兵庫・宝塚大劇場は2月4日まで。東京宝塚劇場は2月15日~3月24日。新人公演はヒロインに3年目の水乃ゆりが抜てきされ、22日に宝塚大劇場で公演を終え、2月28日に東京宝塚劇場での公演を控える。

粗野ながらに情に厚い船乗りが、家出した名家の令嬢に出会う。「あったかさしかないです」。トップ娘役綺咲愛里(きさき・あいり)演じる令嬢との切ない恋を描いた名作は、戦後の日本ミュージカルの草分けで、「君の名は」シリーズなどを手がけた菊田一夫氏の作。初演63年の内重(うちのえ)のぼる以降、古城(こしろ)都(73年)順みつき(83年)ら、大先輩が演じてきた役柄だ。

「彼女を守るために、わざと自分が悪者になったり、私だったらなかなかできない。身分違いゆえ、夢見心地から現実にさらされて。現代の男性にはない男らしさ。我慢をし、人のために自分を犠牲にするかっこ良さです」

男らしさの定義、あり方に悩んだ。今作の潤色・演出の上田久美子氏からは「合うと思う」と言われた。

「どこからどう攻めていくか。上田先生から、あえて明るく振る舞ったりするところが(紅と)似ている。カール(主人公)の気持ち、分かると思ったんだよねって言われまして…」

思案をめぐらせ、思いついたヒントがあった。

「(鍵は)現代では忘れられがちな人情、他人を生かすために自分が犠牲になる精神。強いて言うなら(男はつらいよシリーズの)寅さん。菊田先生の言葉の持つ力がすごく大きくて。江戸っ子。江戸前なしゃべり方、べらんめえ口調で、投げたような言葉の中にあったかさがある」

時代背景はまったく違うが、紅が考えた主人公の世界観は「寅さん」だった。

「私自身も『黙っとけばいいのに』ってところで、いらんこと言ったりする。結果、矢面に立つ-みたいな(笑い)。そういう性分なんだなと思うので、ちょっと分かる気もする」

他人と積極的に関わろうとする大阪人気質が、どこか懐かしい「人情味」へとつながり、紅自身の特長でもある。平成の最後に上演する意義も感じる。

「温故知新。菊田先生が宝塚のために書き下ろした大切な作品。『古き良き宝塚』を知り、現代にプラスアルファで伝えられたら。星組が大きくなるチャンス。105周年。節目の年の頭に(公演を)させていただく責任を感じ、自分の人生において、財産になればいいなと思います」

星組は柚希礼音がトップだった100周年時も年頭に本拠地作で、紅も出演していた。節目イヤーの行事と、稽古が重なり「時間との闘いだった」と開幕までを振り返る。ただ、逆境に燃えるタイプでもある。そう聞こうとした質問の途中で「そうです」と返した。

「今年も挑戦を恐れない1年に。挑戦は勇気がいる。そんな簡単にできない。妥当なとこで止めておこうかってならないように」

亥年(いどし)そのままに、いのししのようにまっすぐ進む。【村上久美子】

◆霧深きエルベのほとり(作=菊田一夫氏、潤色・演出=上田久美子氏) エルベ河に隣接する港町を舞台に、ビア祭りの日に出会った男女の切ない恋を描く。粗野な口ぶりながら情に厚い船乗りカール(紅)は、帰港時に、父との確執から家出してきた名家の令嬢マルギット(綺咲愛里)と瞬時に恋に落ちる。菊田一夫氏が宝塚歌劇に書き下ろし、63年に初演されて以降、再演が重ねられ、今回が36年ぶりの上演。

◆スーパー・レビュー「ESTRELLAS(エストレージャス)~星たち~」(作・演出=中村暁氏) スペイン語で「星々」を意味するエストレージャス。「誰もが星のように光を与えることができる」をテーマに表現する。

☆紅(くれない)ゆずる 8月17日、大阪市生まれ。02年入団。08年「スカーレット・ピンパーネル」で新人公演初主演。14年「風と共に去りぬ」で全国ツアー初主演。16年11月に星組トップ。17年「-ピンパーネル」で本拠地お披露目。昨春は落語「地獄八景亡者戯」をもとにした異色ミュージカルに主演。同秋には、第3回台湾公演に主演。身長173センチ。愛称「さゆみ」「さゆちゃん」「ゆずるん」「べに子」。