花組トップ柚香光は、就任後本拠地2作目「アウグストゥス-尊厳ある者-」「Cool Beast!!」で、かねての望みがふたつ同時にかなう。ローマ帝国の初代皇帝を演じる芝居で「マントをひるがえして立ち回り」、ショーでは「はだしでダンス」。劇団きってのダンサー、華ある若きトップがオーラ全開で魅了する。兵庫・宝塚大劇場で4月2日~5月10日、東京宝塚劇場は5月28日~7月4日。

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コロナ禍延期により、今公演がトップ本拠2作目。「活気のある稽古場。とくにショーは、花組生(本拠地作)として1年半ぶり。きたぞ! という熱気がすごい」。芝居では、ローマ帝国の初代皇帝オクタヴィウスを演じる。カエサルの腹心との対立を経て、皇帝へと歩む様を、あて書き要素も含めて描く。

「青年期は若さゆえの青さ、未熟さも楽しく、新鮮です」。若きトップは「尊厳ある者」の称号を持つ英雄の成長過程にひかれた。

「聡明(そうめい)な方でも、葛藤や挫折、過ちを経験して進む。道を踏み外し、己の感情にのみ込まれそうになりながら。最初から完璧な人間はいない」

圧倒的なダンス力や華やかなルックス、舞台映えする立ち姿で、下級生時代から注目された柚香も、悩み、苦しんできた。

「恐れ多いですが、『柚香』もまだ成長しなきゃ。まだまだほど遠い(笑い)。(この役で)エールをいただいた気になります」

マントをひるがえしての立ち回りにあこがれ、今回、実現する。もうひとつ。名鑑「宝塚おとめ」に書き続けた「はだしで踊る」夢がショーでかなう。「私の長年の夢でした」。男役は、足首まで革で固定されたブーツで踊ることが多い。

「踊りは、足の裏、足首を柔軟に使うことが重要。いつもは固められた中でいかに柔軟に踊ることを意識していますが、それが解き放たれた状態で踊るとなれば、可動、躍動が大きく違う。舞台上を自由に動き回れる快感。よろいがはがれていくような感覚です」

はだしなら、かかとが直接、地面に着く。

「アキレス腱(けん)が伸び、引っ張られる筋肉が変わる。調子にのって擦り傷を作らないように」

ショーはラテン調、野獣にふんする。自身を動物に例えると「うーん、イヌ科かな…ネコではないな…」。もっとも、自宅では…。

「それはネコ。こたつで丸くなって(笑い)。アルパカ? のんびりした感じ。窓を開放して、音楽をかけ、ただただ、ソファに」

昨年、本拠お披露目は約4カ月遅れで7月の大劇場再開でやっと開幕した。

「自分ってこんな人だったんだ-と。何か発することを求められ、感情を出す習慣がついていたけど、意外と何も発散しない。忘れていた自分を自覚しつつ…。飾らない、その身のままでいられるようになった」

今公演で、花組一筋で「花男」として生きざまを見せてくれた先輩スター瀬戸かずやと、相手娘役の華優希が退団する。

「瀬戸さんと過ごした時間と信頼は大きく、感謝の思いでいっぱい。華ちゃんとは、できるだけ濃く同じ時を過ごし、最後に『楽しかったね』と笑い合えるように送ってあげたい。悔いなく卒業できるよう、実りのある、うそのない時間を過ごしていけたら」

コロナ禍で小休止をはさみ、再び歩み始めた。

「私の感覚としては(小休止の期間に)見失ったものを教えてもらい、いかに私たちが恵まれた環境の中で大勢の方に愛していただいていたかを、あらためて、腹の底から実感することができた。今後、絶対に、この時間があったかないか-で、違うことになる」

心技体すべて解き放たれた柚香は前向きに、跳躍を続ける。【村上久美子】

◆ドラマ・ヒストリ「アウグストゥス-尊厳ある者-」(作・演出=田渕大輔) 「アウグストゥス(尊厳者)」の称号を贈られたオクタヴィウスは、ローマ史上初の皇帝。彼はいかにして、カエサルの後継者となったのか-。カエサル(夏美よう)の腹心、アントニウス(瀬戸かずや)ブルートゥス(永久輝せあ)らとの対立を経て「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」へ至った英雄を描く。カエサルを「父の敵」として討とうとするポンペイアに華優希、クレオパトラ7世役で専科から凪七瑠海。

◆パッショネイト・ファンタジー「Cool Beast!!」(作・演出=藤井大介) トップ柚香の個性のひとつが「野性的な色気」。柚香が「Beast(野獣)」に、華は「艶花」にふんし、ストーリー仕立てにつづる。

☆柚香光(ゆずか・れい)3月5日、東京都生まれ。09年入団。花組配属。14年2月新人公演初主演。同6月宝塚バウホール初主演。15年台湾公演でオスカル。17年「はいからさんが通る」で外部初主演。19年東京で「花より男子」主演。同11月に花組トップ。昨年「はいから-」で本拠お披露目。身長171センチ。愛称「れい」。

夢が2つ同時にかない、喜ぶ花組トップ柚香光(撮影・村上久美子)
夢が2つ同時にかない、喜ぶ花組トップ柚香光(撮影・村上久美子)