雪組の人気スター彩風咲奈が兵庫・バウホール公演「パルムの僧院-美しき愛の囚人-」(24日~11月3日)で単独初主演している。恋に身を崩す青年役で、大先輩の大地真央を参考に、少年と大人が同居したキャラクターを演じている。

 彩風は今春、新人公演(7年目まで)を卒業し、バウホール公演で初の単独主演が決まった。「今の自分が一番出せる役じゃないか。今この役に巡り合えてありがたい」。笑えばチャームポイントの八重歯が光る。

 今作は仏文豪スタンダールの「パルムの僧院」をミュージカル化した。神学校を卒業し、故郷に戻った青年が叔母にひかれ、投獄の憂き目を経て、監獄長官の娘と恋に落ちる。恋に身を滅ぼす青年のいちずさが軸になる。

 「大湖(せしる)さん演じる叔母と、(星乃)あんりちゃんの純粋な女の子への愛は、区別して表現しなきゃ。幼さと大人っぽさの中間にいて、青年でもなく、少年でもない」

 新人から中堅へ。自分の立場とも重なる。47年にジェラール・フィリップ主演で映画化された作品も見た。宝塚では、柴田侑宏氏が「情熱のバルセロナ」として、同作を下敷きに舞台化。82年に、大地真央、黒木瞳のトップお披露目公演として初演されている。

 「大地さんが若々しさと男らしさを、すごくすてきに出していらした。かわいらしく、無邪気さも残りつつ、男らしさも。男役としてのしぐさも格好よくて、アンニュイさも、すてき」

 少年と大人の同居。大先輩を参考にし、それこそが今の彩風の魅力でもある。

 「青年ではあるけど、叔母に対しては少年っぽく、今の私が目指したいところ。等身大の自分で演じられるので、ありがたいです」

 彩風は新人公演に5回主演。元雪組トップ音月桂、現星組トップ柚希礼音に並ぶ。キャリアは十分だけに、飛躍が期待される。

 「数字に負けそうだった。『こんな程度?』ではなく、負けず嫌いなので『さすが経験しているだけあるね』って言われるように、しっかり技術を磨きたい」

 入団から3人のトップを見てきた。最初は色気と男らしさを兼備した水夏希。「ストイック。果てしない追求心と、満足しない精神は、私の役作りの原点です」。その次が5回主演の先輩、音月。「ケイさんは太陽のようなお方。自由に演技をさせてくれ、役を作る力を学ばせてくださった」。

 8月末で退団した壮一帆からは、ベテランゆえの存在感、男らしさを知った。

 「こんな男前な方がいらっしゃるのか…と。でも、ご自身は器用ではないから、心だけは負けないって。お芝居も踊りも歌も、心がないと伝わらないよって」

 11年バウ公演「灼熱(しゃくねつ)の彼方」では、先輩の彩凪翔とダブル主演も経験。着実にスターの階段を上る。

 「『灼熱の彼方』は初日前に怖くなって、泣きました。今回は1人で、不安ですけど、学年も経験も違う」

 泣くとすっきりするタイプで、舞台開幕の前日には、長めの入浴と、趣味の読書、好きな物を食べ、眠りに就くスタイルで過ごす。

 「多分、今回も」。そう笑った彩風の胸に、ペンダントが光った。「(今作の)勉強のためにイタリアへ行って、買ってきました」。公私ともに充実させ、中軸の1人として組を引っ張っていく。【村上久美子】

 ◆バウ・ミュージカル・ロマネスク「パルムの僧院-美しき愛の囚人-」~スタンダール作「パルムの僧院」より~(脚本・演出=野口幸作氏) 仏作家スタンダールの長編小説「パルムの僧院」をミュージカル化。19世紀初頭のイタリアの小公国パルムが舞台。神学校を卒業した青年ファブリス(彩風)が故郷に戻り、育ての親で叔母のサンセヴェリーナ公爵夫人(大湖せしる)と、許されざる関係へ発展。そして、投獄されたファブリスは、監獄長官の娘クレリア(星乃あんり)と恋に落ちる。恋に身を滅ぼす青年の姿を描く。

 ☆彩風咲奈(あやかぜ・さきな)2月13日、愛媛県生まれ。07年首席(93期)入団。同年「さくら/シークレット・ハンター」で初舞台を踏み、雪組配属。10年2月、3年目で「ソルフェリーノの夜明け」新人公演に初主演し、昨年5月「ベルサイユのばら-フェルゼン編」まで、新人公演に5回主演。11年7月には「灼熱の彼方」で、1期上の彩凪翔とともにバウホールでダブル主演も経験。身長173センチ。愛称「さき」。