先日、最終回を迎えたドラマ「コントが始まる」(日テレ系)。売れないお笑いトリオ「マクベス」が結成10年を機に解散へと向けて進んでいく物語。最初のコントの内容が各話のテーマになる新鮮な作りで毎週楽しませてもらった。キャストはヒットした映画「花束みたいな恋をした」の菅田将暉と有村架純。そして、先日コラムにも書かせてもらった仲野太賀と子役から順調すぎる成長を続ける神木隆之介。若手トップクラスの4人がそろい、主題歌があいみょんと始まる前からかなり期待していたが、その通りの良作ドラマであった。

解散と言いつつ、どこかで考えを改めトリオとして売れていく話かと思いつつ、期待に反し毎週着実に解散へと向かっていく。キャストや時間帯から、若者向けのキラキラとした青春ものと思いきや、キラキラした要素は皆無で、10年プロとしてやってきた彼らがもう10年頑張れるか、物語はそこに焦点があたる。

恩師の真壁先生(鈴木浩介)に辞めようかと相談すると、解散したほうがいいとはっきりと言われる。おそらくまだまだ頑張れと言われるのだろうと思ったメンバーはがくぜんとし、さらに「18歳から28歳の苦しみと、この先10年の苦しみは別次元だぞ」とダメ押しされる。そこではっきりと気付かされる。これは、20代の若者が夢をみる話ではなく、20代後半の若者が現実の見る話だと。

自身の話になって恐縮だが、デビュー作「リュウセイ」がまさにその話であった。中学生の時に夢を語り合った3人の12年後、バンドマンを夢見た少年は夢を諦め地元の居酒屋で働き、家庭環境に問題のあった少年は何かに逃げてキャバクラの送迎で生計を立て、親の仕事が嫌で上京した少年は起業に失敗し金策で田舎に帰ってくる。夢や希望といった淡い言葉だけでは暮らしていけない3人の物語である。

ちなみに評価はクオリティーうんぬんではなく賛否が分かれた。東京出身で大学から普通に就職した順風満帆な人には全くといっていいほど共感されず、田舎から上京して何かしら夢を追いかけていた人には刺さる映画だったと自負している。「コントが始まる」も同じくといっては何だが、誰にも共感される王道ドラマではなく、ある特定の人たちに刺さるドラマだったと思う。夢を目指している人、夢を諦めた人には特別なドラマになったのではないだろうか。このコラムを読んで、少しでも興味をもった人は配信などでぜひ見て欲しい。もちろん「リュウセイ」もお願いします(笑い)。

さて本題。今回取り上げるのは、前述の若手トップクラスの4人に加え5人目としてキャスティングされた古川琴音(24)。独特な雰囲気とセリフまわしが印象的、初見は「十二人の死にたい子どもたち」のゴスロリ嬢、正直今回調べるまで分からなかった見事といえる役づくり。そして昨年公開の映画「蒲田前奏曲」では、連作短編の1話の主役を演じる。プロデューサーも務めた松林うらら演じるマチ子のかわいがる弟の彼女役。弟の彼女ということで敵対するはずが、なぜか憎めずに彼女のペースにはまっていく。

そして朝ドラ「エール」を経て、今回のドラマ出演。マクベスの大ファンである里穂子(有村架純)の妹役、社会や会社に疲れた情緒不安な姉を心配して一緒に暮らし始める。多少の世話好きだが、夢や希望に生きていたマクベスに感化されるわけではなく、姉の社会復帰を応援するわけでもなく、ただただそこに存在することでまわりが勝手に動きだす。そして、気づいたら彼女のペースにはまっていく。そんな難しい役どころを人気者の4人に負けずと演じきった。そんな彼女に今後も注目です。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画『リュウセイ』の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開予定。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)