「聞いて驚くな。実家は意外とやることないぞ。」年末にNetflixが手がけた電車広告でのコピー、ついうんうんとうなずいてしまう。年末年始、日頃会えない家族や友達と慌ただしく過ごすが、仕事をしているときと比べるとボーっとしている時間が長いのは確か。

そこで、12月に配信が開始された中からちまたで話題になっている作品をいくつか挙げてみる。Netflixから「今際の国のアリスSeason2」「First Love 初恋」、そしてディズニープラスの「ガンニバル」。人気作品の続編と宇多田ヒカルのヒット曲からインスパイアされた作品、さらには人気漫画の実写化と、帰省した際に観る分には十分すぎるラインアップではなかろうか。

その中から今回は「First Love 初恋」を掘り下げてみる。まわりの業界関係者から勧められる回数がもっとも多く、SNSなどでもとても評価が高い。比較的苦手な恋愛ものだが、せっかくの機会なので観てみることに。

物語は3つの時代を背景に、男女2人の20年に及ぶ壮大なストーリー。テーマはタイトル通り「初恋」。主人公の男女に満島ひかりと佐藤健。現在と過去を行き来するよくある話かと思い観始めるが、3話あたりから急展開する。内容はもちろんお楽しみとするが、とにかくクオリティーが高く、ひとつの芸術作品として成立っている。

高水準な上に持続性もあり、日本のドラマもやるなと素直に思った。監督・脚本を務めたのは寒竹ゆり、これまでのキャリアをみる限り大抜てきといってもいいのではなかろうか。(監督のインタビューにもあったが)成功事例に倣って手堅く製作されがちな中、才能を信じ続けたNatflixの決断に拍手を送りたい。

そこで本題となる俳優紹介では、佐藤健の青年期を演じた木戸大聖を取り上げたい。大作ドラマのメインキャストだが意外にも初見の俳優である。まだ10代かなと思ったが調べてみると現在26歳、何度かコラムに書かせてもらったが、昨今の若手俳優事情はとにかく厳しい。仮面ライダーや戦隊もの出身俳優を中心に子役や雑誌モデル、さらには2・5次元舞台にリアリティーショーなどでひとブレイクしてから本格的な俳優になっていくケースが多い。そんな中、20代中盤にしての大役への起用。ちなみに相手役の八木莉可子は21歳にしてポカリスエットのCMはじめ、昨年の大河ドラマへの出演とすでに注目の1人。そんな木戸だが、満島や佐藤はもちろん、他のキャストと比べてもキャリアは見劣りするが、なんとも堂々とした演技をみせる。テーマである初恋を体現する重要な役柄であり、喜怒哀楽を表現する機会が多く難しい役どころであるが、彼の目を通すことで物語自体がイキイキと動きだす。まさに100点満点のキャステイングである。

寒竹監督もだが、この作品で一気に人気俳優に肩を並べるのではないかと思う。配信サービスから突如現れた次世代スター、今後の活躍に要注目です。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。最新作「追想ジャーニー」が11月11日から池袋シネマ・ロサ他にて公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)