6月26日に行われた「第17回テレビ朝日新人シナリオ大賞」発表会で、審査員を務めた脚本家井上由美子さんが受賞者たちに送ったメッセージです。同じく審査員を務めた岡田恵和さん、両沢和幸さんとともに、第一線で活躍する脚本家たちの厳しくもあたたかい激励がどれもすてきでした。

 NHK朝ドラ「ひまわり」(96年)や、最近も「昼顔」「緊急取調室」などのヒットドラマを連発する井上さんは、最近のコンクール応募作の傾向について「できるだけ批判されないような作品が多く、チャレンジしているものが少ない」と指摘しました。

 「テレビが弱くなっているといわれ、作品がたたかれることも多いです。傷つきやすいからこの仕事を選んでいるのにたたかれて本当につらいですけど」。井上さんほどのヒット作家でも、長いキャリアの中にはしんどい結果に終わった作品もあるでしょうし、作品として世に出した以上、常に受け手の批評にさらされる覚悟とも戦っているはずです。そんな胸の内をさらっと笑顔で明かし「私たちも頑張っています。皆さんも強い脚本家になってほしい」。現場感覚あふれるプロの言葉に、受賞者たちも勇気を得たと思います。

 岡田さんも、型に収まらない「チャレンジ」を呼び掛けました。「先輩たちが作ってきた型をできるだけ壊してほしい。“こういうのがいい”という型が出来上がったらそれはすでに腐っていく。新しいチャレンジが必要」。放送中の朝ドラ「ひよっこ」や、「最後から二番目の恋」「ど根性ガエル」などで知られるヒットメーカーですが「こうしてステージに上がった以上は同業者であり、ライバル」と最大限のエール。「特に助けませんけど、ぜひ一緒に書いていきましょう」とユーモアを交えて話しました。

 「お金がない!」「黒革の手帖」などで知られる両沢さんはさらに実践的。「書きたい作品を送るコンクールと違い、プロになると、発注されたものを書くのが仕事になる。苦手な作品をオファーされることも多い。そこを乗り越えないとプロにはなれない。いつか自分が本当に書きたいものを書ける。それまではこだわらずに書いてほしい」。これも、井上さんが言う「強い脚本家」への第1歩ですよね。

 今回は1544作の応募があり、池田有佳里さん(40=編集アシスタント)の「ヒマワリの向いていない方」が大賞に選ばれました。受賞スピーチでは「オリジナルを書ける脚本家を目指しています」と力強く語りました。優秀賞は小林千晶さん(38=会社員)の「みんな大切な私」、湊寛さん(40=会社員)の「さかのぼり郵便局」が選ばれました。3人とも、井上さんたちの言葉に真剣に耳を傾けていました。

 型通りの美辞麗句ではなく、売れっ子脚本家が現場でつかんだ貴重なプロ哲学をぶつけてもらえた受賞者たちは幸せだと思います。ドラマ界を新しい才能がかき回してくれるのは、ドラマファンとしても大歓迎。厳しい世界ではありますが、いつか人気脚本家として取材できる日を楽しみにしています。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)