14日に放送されたNHK連続テレビ小説「わろてんか」12話で、ヒロインの兄、藤岡新一(千葉雄大)がまさかの“ナレ死”で退場して話題になりました。千葉雄大さんが丁寧なまごころで演じてくれた、このドラマの良心。死んでしまうのは時間の問題だったとはいえ、きちんとお別れしたいキャラクターだったので、いきなり遺影とナレーションで業務連絡されてしまい、新一ファンとして途方に暮れています。

 吉本興業創業者、吉本せいをモデルにしたオリジナル作品で、新一はヒロイン藤岡てん(葵わかな)の兄。薬種問屋の長男として帝大薬学部に学ぶ秀才でありながら、肺の持病のため、休学して自宅療養せざるを得ない役どころです。悔しさと向き合い、常に向上心を持ち、元気がとりえの妹には常に優しい指針になる、おっとりしたいいお兄さんなんですよね。

 NHK大阪制作で、笑いがテーマ。くしゃみをすると通行人が一斉にコケるコテコテな世界観で攻めていますが、新喜劇カルチャーに慣れていないこちらとしては、新一の存在にだいぶ救われていました。才気と節度がみなぎる穏やかな笑顔が画面に広がって、空気が一気にすがすがしくなる感じ。「お父さんが化け猫になった」とか「笑いの色は何色」とか、幼い妹の訴えにおおらかに向き合う時間がいい見ごたえだったのです。

 演じていた千葉雄大さんもすてきでした。王子様感やフェアリー感を得意とする俳優さんという印象でしたが、「こんな病気、さっさと退治して立派に成長してみせる」という骨太男子もうまいとは。千葉さんは役について「秀才とはいえ、きっと努力の人」と語り、「いろいろな人の気持ちを察する繊細な一面を持ちつつ、穏やかな中にある強さというものを表現できれば」。新一としてのラストシーンは、ナレ死前日の11話。自室で1人、涙が首まで伝う、反則みたいな美しさでした。

 これが実質的なお別れシーンとはいえ、さすがに翌日の冒頭であっさり遺影になっているとは思わなかったので、いろいろ衝撃的。「家族の笑顔に包まれ、静かに息を引き取る」場面を千葉君がどう演じるのか見てみたかったし、きちんと喪失感に浸りたかったとも思うのです。

 「つらい時こそ笑うんや」が遺言とはいえ、跡取りを亡くしたばかりの家族が大爆笑で朝ごはんを食べている光景はさらに衝撃的。このカオスを浄化する新一がいなくなって大丈夫だろうか。興味は尽きません。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「B面★梅ちゃんねる」)