春ドラマの放送延期や中断を受け、5月はリモート撮影によるプラスアルファや新作作りが盛んに行われた。

あれこれ見た限り、アイデアやクオリティー、見ごたえの軍配は民放にあり、期待したNHKが、ネット動画サービスの後追いな印象だったのは残念だった。

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挑戦と結果が出色と感じたのは、テレビ朝日「家政夫のミタゾノ」特別編、日本テレビ「美食探偵 明智五郎」6話、TBS「逃げるは恥だが役に立つ特別編」2話、の3本。

◆「家政夫のミタゾノ」特別編(5/29)

金曜ナイトドラマ「家政夫のミタゾノ」特別編(C)テレビ朝日
金曜ナイトドラマ「家政夫のミタゾノ」特別編(C)テレビ朝日

濃厚接触ゼロ、リモート撮影で1時間の完全新作。出張と偽って別宅にいる依頼人のパソコン画面を軸に、「留守宅のミタゾノ」「部下とのリモート会議」「愛人とのビデオ電話」の3場面が無理なく展開。ミタゾノののぞき見体質はPC画面でも発揮され、意外なITスキルで依頼人を崩壊に導くストーリー性は通常回と見劣りしなかった。リモートだからこそできるシナリオを組み立て、お約束の家事情報や時事ネタもばっちり。ネットが「神回」と沸いたのも納得した。

◆「美食探偵 明智五郎」6話(5/17)

日曜ドラマ「美食探偵 明智五郎」(C)NTV
日曜ドラマ「美食探偵 明智五郎」(C)NTV

1シーンだけ撮り残したまま撮影中断となった6話のラストを、何もない空間での演劇風に演出。「通常とは異なる方法」(日テレ)で感染対策を講じ、極端な距離で向かい合って座る中村倫也と小芝風花が重要なせりふを交わした。倒錯愛という哲学的なテーマに抽象的な黒背景が合い、「君にしかない存在理由がある」という探偵と助手のやりとりがずしんと効く。火災の絶望からのシーンだったため、暗い心の中のイメージ表現のようで、急な転調もまったく違和感がなかった。

◆「逃げるは恥だが役に立つムズキュン!特別編」2話(5/26)

4年前の「逃げ恥」ブームに火を付けたエンディングの「恋ダンス」を、ステイホーム中の新垣結衣と星野源がリモート映像で踊るサプライズ。ともに自宅と思われる場所から、ガッキーはピンクのパーカー、星野はカーテンをバックに茶色のシャツというラフな装いで視聴者とステイホームを共有。「#逃げ恥」がツイッターの世界トレンド1位にランクインした。

ほかにも、内藤剛志らリモートデビューの中高年キャストがハイなリモート捜査会議をしていたテレ朝「警視庁・捜査一課長2020」や、フジ「鍵のかかった部屋」の弁護士と、「SUITS/スーツ2」の弁護士をリンクさせた月9の1シーンなどもアイデアを感じた。

一方のNHKは、人気脚本家と豪華出演者のキャスティングでステーションパワーを見せたものの、映像作品としての見せ方やアイデアは、先行するネット動画サービスの手法の後追いにとどまった印象だ。

5月上旬に3夜にわたって放送したリモートドラマ「今だから、新作ドラマ作ってみました」は、森下佳子氏ら3人の人気脚本家がシナリオを手掛け、満島真之介、小日向文世、柴咲コウらが出演。カップルのリモート交流、妻の幽霊と夫の夫婦愛、SFコメディーというラインアップだったが、定番のお部屋トーク、定番の分割画面、画質の悪さ、生かされない複数の定点カメラなど、期待していたものとはちょっと違った。

この感じなら、ネットでは4月からさまざまなクリエイターが発信していた。放送作家鈴木おさむ氏は4月13日という速さでリモートドラマ「せーの」を配信しているし、映画監督行定勲氏も、同24日に高良健吾、有村架純ら豪華メンバーによるショートムービー「きょうのできごと」を配信している。1カ月遅れでNHKがやるなら、圧倒的なクオリティーや見たことのない映像表現など、格の違うNHKモデルを見せてほしかったと思うのだ。

30日深夜には坂元裕二氏脚本のリモートドラマ「living」が放送された。1話は広瀬すず×広瀬アリス、2話は永山瑛太×永山絢斗という血縁キャスティングで濃厚接触しまくりの試みだったが、やはりお部屋トークの会話劇となった。人類の愚かさへのメッセージ性は深かったが、こんな時こそリモート撮影で主人公をあちこちに動かし、通常営業してみせた「ミタゾノ」のガッツの方が輝いて見えたし、元気をもらえたのだ。

緊急事態宣言の解除を受け、テレ朝が今月1日からの撮影再開を表明するなど、ドラマ業界も再始動の動きが出てきた。しばらく続きそうなリモート撮影の奮闘と合わせ、送り手も受け手も、踏ん張り時と感じる。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)