落語家三遊亭とむ(33)の独演会「スーパー落語 ラブファントム2017」が、東京・隼町の国立演芸場で、このほど行われた。お笑い芸人・末高斗夢から転じて、好楽門下に入って6年。こうもりから、14年に二つ目に昇進してとむ。ついに日本の演芸の殿堂に登場した。

 満員の300人のファンを前にした、とむは昼席のトリを桂歌丸(81)が務めたことをあげて「自分でいいのか、国立演芸場。これが最後かも」と笑わせた。

 演目は三席。最初は新作でわかせて、次は「鰻の幇間」。もともとが「若旦那」で「与太郎」のとむだから、野ダイコの一八は、はまる。一八をだまして鰻を食い逃げする男も巧みにこなし、進歩の跡を見せた。

 トリで演じたのが“落語中興の祖”三遊亭円朝作の「心眼」。浅草馬道に住む、目が不自由な梅喜(ばいき)が、恋女房のお竹の支えもあって、薬師如来に日参、目が見えるように。芸者小春と待合にしけ込む。そこへお竹が血相を変えて飛び込んできて、もみ合ううちに、梅喜がはっと目覚める。夢だったのだ。「もう信心はやめだ。目が見えねえてえなあ、妙なものだ。寝ているうちだけ、よぉく見える……」という落ち。

 八代目桂文楽が得意とした古典落語の名作を掛ける心意気やよし。時々、とむならではのくすぐりを入れながら演じきった。昨年5月に結婚。10月には第1子となる長男が誕生予定だ。来年1月21日には、収容人員1100人の東京・有楽町のよみうりホールで独演会を行う。駄じゃれ芸人から落語家になること自体が、ある意味、無謀な挑戦だった。これからも自身の限界をもうけずに精進してほしい。とむを見ていると、つい最近、インタビューした元フジテレビの3代目ひょうきんアナだった、テレビ朝日系「サンデーステーション」(日曜午後8時54分)の長野智子キャスターの「志を持てば、人間は成長できる」という言葉が染みる。

 その一方で、今回の公演で一番味わい深かったのが、トリ前に出たピン芸人の冷蔵庫マン。段ボールで作った冷蔵庫を被って駄じゃれを言って「冷え、冷え~」と落とすのだが、くだらなすぎてはまってしまった。世の中には、まだまだ未知の芸人がたくさんいることを思い知らされた。あの芸の後で「心眼」をやったのだから、高尚に思えた(笑い)。国立演芸場の独演会で、冷蔵庫マンをブッキングするのも、とむ一流のしゃれなのかも。芸人魂を感じた。