新海誠監督(44)の商業デビュー15周年を記念した展覧会「国立新美術館開館10周年 新海誠展 『ほしのこえ』から『君の名は。』まで」が、11日から都内の同館でスタートする。新海監督を以前から取材し、前日10日の記者発表会後、展覧会を内覧した記者が、見どころをリポートする。

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 会場に一歩、足を踏み入れた刹那に、新海誠というアニメーション監督が歩んできた15年の作家人生のみならず、43年の人生が、真っ白なキャンパスに描かれているような印象を受けた。

 展示は、新海監督の商業デビュー作となった02年の短編「ほしのこえ」から、邦画の興行収入歴代2位となる250億3000万円を記録した、16年のアニメーション映画「君の名は。」までの6作品ごとに章に分けられ、さらに同監督の人生をひもとき、作品を分析する別章で構成される。

 会場内の壁は白が基調で、各作品の絵コンテ、場面カット、ポスター用ビジュアルなどが掲出されている。第1章で目を引いたのが、「ほしのこえ」を東京・下北沢トリウッドで初上映した際のポスターだ。初の長編となった04年「雲の向こう、約束の場所」を紹介した第2章では、劇中に登場する飛行機「ヴェラシーラ」の模型が、今にも飛び立たんばかりの勢いで宙に浮かぶ。07年「秒速5センチメートル」を紹介した第3章では桜ふぶき、13年「言の葉の庭」を紹介した第5章では雨と、それぞれの作品の象徴が降りしきる映像が、白い壁に映し出されて作品世界に入り込んだような感覚を覚えた。

 新海監督が内覧会の前の会見で「200、300人の映画作りの戦いを展示していただいた。スタッフとのコミュニケーションの過程、観客とどうコミュニケーションを取るかの過程を見ていただきたい」と語ったように、製作の裏側も存分に紹介している。特に、たった1人で製作した「ほしのこえ」を紹介した第1章、「君の名は。」を紹介した第6章には、それぞれを製作した当時のパソコンとデスクが再現された。別章にも、新海監督が小学校時代に初めて触り、ゲームを自作したパソコン「MZ-2000」(82年、シャープ)が展示され、パソコン、インターネットの普及という時代の流れを先んじて製作を続けてきた歩みを垣間見ることが出来る。

 別章に展示された「新海誠の歩みと時代の変遷」と題した年表は、新海監督が生まれた1973年(昭48)からの個人史、同監督がデジタル機器に触れた体験、社会の動きとデジタルとインターネット環境の変遷を、世界史の年表のように並行してまとめている。新海監督と時代を一目で俯瞰(ふかん)することができ、極めて意義深い。

 また、「君の名は。」で主人公の立花瀧を演じた神木隆之介(24)が担当した展覧会の音声ガイドは、新海作品の大ファンでもある神木が監督から直接、聞いた裏話はもちろん、自らの熱い思いも語る充実の内容だ。神木は会見で「人それぞれ居心地がいいリズムがある。心の中でモヤッとするリズムになっちゃいけない。感情が入りすぎてもダメ…難しかった」と収録を振り返ったが、静かに語りかける口調は心地いい。神木自ら新海作品を読み解く部分や、クイズもあり内容は濃く、神木ファンはもちろん、新海作品のファンも必聴だ。

 記者発表と内覧には、世界各国から200人を超える取材陣が足を運び、米ニューヨーク・タイムズをはじめ欧州、中国など世界各国のメディアも駆け付けた。世界的にも注目度が高い今回の展覧会は、12月18日まで同館で行われる。【村上幸将】