TBS系日曜劇場「陸王」(午後9時)が第4話まで放送終了し、平均視聴率15%前後と好調だ。同枠はこれまでも池井戸潤氏原作の「半沢直樹」(13年)「下町ロケット」(15年)などで高い人気を得てきた。役所広司(61)ら実力派俳優に交じってキラリと光る存在感を見せているのが阿川佐和子(64)だ。インタビュアーとしての心得を書いた「聞く力」でミリオンセラーになった作家であり、MCでもある阿川の連ドラの出演は初めて。女優として活躍の幅を広げている阿川の素顔に迫った。【取材・川田和博】

 

■私のどこがいいの?って聞いたら「仕切るところ」だって

 

 キャスター、エッセイスト、インタビュアー…。多才な顔を持つ阿川に、女優の肩書も加わった。実力派俳優がズラリとそろったTBS「陸王」の中での好演が光る。

 「意外でしょう。本当にみなさんから意外だったと言われます。お芝居は過去にちらりんちょと、やったことはあったけど、まさかこんなにお金をかけたドラマに出ることになるとは思いも寄りませんでした」

 オファーをもらった時に最も心配だったのは山積みになっている仕事のスケジュール調整だった。

 「新しいものにすぐに乗るタチではあるのですが、『いや待て待て自分と』(笑い)。どれくらいの役なのか分からなかったけど、今、このスケジュールでは無理なんじゃないかと思ったんです」

 「週刊文春」の対談連載「この人に会いたい」に加え、「サワコの朝」(TBS系)「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)のレギュラー出演を抱える多忙ぶりだ。

 「とにかく1度お会いしましょうとなってプロデューサーとお会いしました。一体なんの役かという前に、『どれくらいのスケジュールなのか』『週に何日必要なのか』と聞いたら『だいたい3~4日です』と言われて。『あ~、これは無理だな』ってなりました」

 作家の娘として育ち、自身もベストセラーをもつ阿川の背中を押したのは、池井戸潤氏の原作ということもあった。

 「池井戸さん原作でTBSの目玉ドラマでしたからね。力が入っていて、それ相応の人たちが集まって何かをやっている所には、何かおもしろいことがあるだろうなという気がしました。そこに声をかけていただくのはありがたいことです。だって、私なんか海の物とも山の物とも分からないでしょう。『私のどこがいいの』って聞いたら『いつもの仕切る感じ』と言われて。『どこで仕切ってるんだ?』と思った(笑い)」

 レギュラー番組や連載に穴を開けるわけにはいかない。

 「文春の担当者には『軽くめまいを起こしました』と言われるし、『サワコの朝』は同じTBSだから1回くらい休んでもいいだろうと思ったけど『ダメです』って。まあ、当たり前ですけど(笑い)。それでキャンセルできるゴルフコンペとか会食とか軒並みキャンセルして回って、泣きそうになりました」

 

■あけみ役、うまい演技とは自然じゃダメなんだって

 

 テレビでの仕事は長いが、初の連ドラ挑戦で分かったことがあった。

 「無理に演技しようとしても素地がないわけだから。どう対処したらいいかと思って監督に小さな声で『自然がいいですよね』と話したら『自然じゃダメです』と言われたんです。でも、その時気付いたの。『うまい演技は自然にやっているようだけど、自然じゃだめなんだ』ってね」

 あけみ役は阿川なりに考えた上で作り上げた。

 「何が必要かと考えて、とにかく声を出すのが一番のポイントだと思った。第1話の『間に合わせるぞ~』というセリフも自分なりに声を張ったけど『もっと大きな声で』と監督に言われて。ならば、やってやろ~じゃないか! と思って。『よし、間に合わせるぞっ!』と声を張ったら合格になったんです。あっ、この要領ね、というのが100万分の第1歩でした」

 

■「進行役やインタビューは孤独な戦い」目元ウルウル

 

 インタビュアーの第一人者であることは言をまたない。また、自身の歯に衣(きぬ)着せぬ物言いも魅力の1つだ。

 「私が代表して聞いているけど、読者や視聴者がおもしろいと思ってくれるものにならなければ仕事にはならない。その材料を集めるのが私の役割です。インタビューは一語一語をしっかり聞かなくていけないから毎日はできない。それだけ集中力のいる作業なんです。でも、私がきれいに映ったり、いい子ちゃんに映ったりじゃなくて、読者や視聴者が『このゲストおもしろい』と思えるものや『あっ、意外なところがあるんだ』というところを見つけなきゃいけない」

 進行役やインタビューは孤独な戦いだという。しかし、今回の連ドラではチームプレーに触れることができた。

 「聞くという立場は1人で、対等に戦ってくれる人はいないんです。スタジオでも1人だし、原稿を書くのも1人。『お前が書かなきゃ進まないんだよ』と言われて泣きながら書くこともあります(笑い)。でもドラマ撮影は1シーン1シーン、1人1人が対等に戦って、1つずつ作り上げていく。考えてみると、あまり経験してないなと。だから、なんて楽しいんだろうと思っています。スケジュール調整以外はすごく楽しい(笑い)」

 私生活では今年5月、6歳年上の元大学教授と電撃結婚。人生のパートナーも得た。

 「楽になったというか、世の中、ちゃんと籍をいれた男女が歩いていると安心するんだね。『あ、亭主かって』ね」

 連ドラの撮影もそんな旦那さんの支えがあってからこそだという。

 「今はめっちゃハードな日々になっているので。(夫が)90歳になる母親のケアまでしてくれます。私がデイサービスの迎えに行けない時に行ってくれたり、そのあと母と一緒にご飯を食べる時にも帰れなかったりすると、自分の親でもないのに『2人でご飯食べてくるよ』と食べに行ったりしてくれる人なので助かります。本当に支えられています。セリフ合わせもしてもらいました(笑い)」

 

■役所さんも苦しみながら戦い、支えてくださっている

 

 連ドラ初挑戦の阿川にとって、こはぜ屋4代目社長、宮沢紘一役を演じる役所広司(61)の存在が大きいという。

 「倍賞千恵子さんにお会いして、役所さんとご一緒していることを話したら『役所さんなら良かったわね』と言われました。私が素人だからすごい迷惑をかけて、心配なさっていると思います、と話したらちょっと黙って、『あなたの考えるようにやりなさい。役所さんは必ず受け止めてくれるから』と言われて泣きそうになっちゃった。実際には役所さんも苦しんでる。サラっとこなしているわけではないんです。でも、みんなを見てくれてるし、ちゃんと支えてくださって、現場の空気を温かくしてくれているんです」

 「陸王」の登場人物はそれぞれが何かと戦っている。そういう設定だ。

 「マラソン足袋を作るという1つの目標はあるけど、それぞれが自分のベクトルで戦っているんです。銀行員もアトランティスの社員だって戦ってる。それぞれが組織の中だったり、個人の人間関係や自分の能力と。全員が戦っているものを持っているのがドラマとしておもしろいなと思います。だからどこで共感したり、一緒に喜んだり、悲しんだりできるかを自分と重ね合わせて共鳴していただけたらいいと思います。泣いたり笑ったりが忙しいドラマですが、皆様にとって、よし俺にはまだ明日がある、と思っていただけるドラマになればうれしいですね」

 

■気がつけば記者が取材されていた!「聞く力」圧巻

 

(取材後記) インタビューの達人にインタビューするとあって緊張で口がカラカラになった。しかし、阿川さんが登場すると初めて会っているのに、不思議と昔からの知り合いのような雰囲気を感じた。それは阿川さんが持っている独特の優しいオーラの影響かもしれないし、そのオーラは数多くの現場を積み重ねてきた結果、身についたものだろうと感じた。その要因は、実はあのチャーミングな笑顔にあるような気がした。

 プライベートな質問となった結婚話で「結婚して物の見方、考え方が変わったか」と聞くと「それくらいで変わりますか?」と逆質問され、気が付けば自分のプライベート、人生の楽しみや痛い経験の身の上話を引き出されていた。まさに「聞く人」の力を体験した瞬間だった。

 インタビュー途中に「インタビューは孤独な戦い」「連ドラでチームワークに触れた」という話で目をうるませたのも印象的だった。あの豊かな感受性が彼女の真骨頂かもしれないし、実はこの「陸王」に最も共鳴しているのも阿川さん自身のようだ。

 

 ◆阿川佐和子(あがわ・さわこ)1953年(昭28)11月1日生まれ、東京都出身。父は作家阿川弘之氏。慶大文学部卒。83年にTBS系「情報デスクToday」でアシスタント、89年同局系「筑紫哲也NEWS23」でキャスターを務めた。著書は「聞く力」「婚約のあとで」など。「週刊文春」の対談連載「この人に会いたい」は今年25年目。17年5月、元大学教授と結婚した。