作品賞の「あゝ、荒野」は前後編5時間5分の長尺だ。岸善幸監督(53)は「作品として評価されたことが率直にうれしい」と笑顔を見せる。「1日の上映回数も限られる。ボクシング映画だから役者さんの肉体改造もあった。コストを考えると賭けだった」。

 主演菅田将暉(24)を始めボクサー役は半年がかりで体形を作りあげた。「菅田君には役者魂を感じました」。命がけのスポーツ。「どうしても実際にパンチを当てるところも撮りたかった」と、監督自身も撮影前に本格的なトレーニングを受けるつもりだった。「結局やめました。観客と同じ客観的な目のほうが大切だと。菅田君にどう思われたか分からないけれど」と苦笑いする。

 多くのドキュメンタリーを手掛けてきた。「まず役者さんに自由に動いてもらう。待つことで、いろんなものが生まれてくる」という演出法。制作会社テレビマンユニオンの同期に是枝裕和監督(55)がいる。「作品を見て、いいなあと思うけど、撮り方を見たことはないから」。ライバル心が垣間見えた。

 ◆岸善幸(きし・よしゆき)1964年(昭39)3月26日、山形県生まれ。96年にテレビマンユニオンに参加。NHKのドキュメンタリーを多く手掛ける。16年「二重生活」で監督デビュー、ウラジオストク映画祭最優秀監督賞。現在はBSフジ「美しき酒呑みたち」を手掛けている。

 ◆あゝ、荒野 新宿の街で出会った新次(菅田将暉)と建二(ヤン・イクチュン)は、ボクシングを通して兄弟のような絆を築く。やがて逃れようのない宿命に直面し、拳を交える。岸善幸監督。

 ◆作品賞・選考経過 「あゝ、荒野」について「粗削りかもしれないけれどパワーがあっておもしろかった」(福島瑞穂氏)「映画としてパンチがあった」(木下博通氏)など、作品の迫力を推す声が多かった。1回目の投票で過半数。