黒沢明監督(享年88)の映画「生きる」がミュージカル化されることが18日、分かった。市村正親(69)鹿賀丈史(67)のダブルキャストで、没後20年記念作品として、10月から東京・ACTシアターで上演される。世界に多くのファンを持つ黒沢監督の作品のミュージカル化は世界初。演出は、ニューヨークやロンドンにも進出経験のある宮本亜門氏(60)が手掛ける。制作側は、将来のブロードウェー進出も狙っている。音楽はブロードウェーミュージカル「若草物語」で知られるジェイソン・ホーランド氏が手掛ける。

 「生きる」は、まじめに働き、代わり映えのしない日々を過ごす定年間近の主人公の勘治が、余命わずかと知り、人生を見つめ直す姿を描いた作品。映画は、志村喬さんが主演して52年に公開。ベルリン映画祭にも出品され、市政府特別賞も受賞した。

 黒沢監督の全30作の中でも、主人公のせりふが少なく、ミュージカルと相性がいいという点も異例のミュージカル化を後押しした。市村は「ミュージカルにすると聞いた時は、非常に目のつけどころが面白いと感じました。新しい楽曲との出合いを楽しみにしたいと思います」。鹿賀は「『生きる』という意味を真剣に捉えて、お客さんに届けたいと思います。日本から世界へ作品を発信する時代が来たと思うと感慨深く、長くこの仕事を続けてきてよかったと思います」。宮本氏は「初舞台化ができることは、この上もない名誉です。映画とは違う感動をお届けできるよう尽力します」と話している。

 黒沢作品初のミュージカル化の情報を聞きつけた各国の演劇関係者からの問い合わせが相次いでいるという。開幕日に各国の演劇プロデューサーを招待するプランもある。制作にあたるプロデューサーは「(市村と鹿賀は)それぞれ個性の違う日本を代表するミュージカルスター。世界中の人に見ていただきたい」と話している。

 ◆映画「生きる」 役所の市民課で働く定年間近の勘治は胃がんで余命わずかと知る。それまでの人生に疑問を抱き人生で初めて欠勤をして夜の街を遊び歩いたが、むなしさが残るだけだった。すると偶然、同僚とよに会い、全てを打ち明けると「何か作ってみたら」と提案され、目の色を変えて仕事に打ち込む。市民の要望だった公園の建設を成し遂げ、園内のブランコに座り揺られながら息を引き取る。