鈴木亮平(35)主演のNHK大河ドラマ「西郷どん」(日曜午後8時)で、薩摩藩主島津斉彬を演じ、際だつ存在感を放つ渡辺謙(58)。このほど大河や俳優業への思いを語った。

 「時代劇は制約が多くていいね。携帯もないし。人間の持つ情熱、情念が、普段生きている者の3倍ぐらいある気がする。現代劇で、生きるの死ぬのと言うと、ふざけるなと怒られそうだが、時代劇だと成立する。思いの深さ、情念の中で人が必死で生きている姿を演じられるのは醍醐味(だいごみ)。時代劇の良さ」

 日頃、大河ドラマで基礎を学んだと話している。

 「基礎中の基礎を全部たたき込まれた。歩き方、立ち振る舞いなど。ここまで時間をかけて実践で学ぶことは本当にない。大河はすごいチャンス。学ぶチャンスとして大河は今後もちゃんとやってほしい」

 84年「山河燃ゆ」で三船敏郎さん、87年「独眼竜政宗」で勝新太郎さんと共演した。今は若手からは目標とされる立場になった。

 「先人たちは、ひたすら自分がやりたいこと、やらなきゃいけないことに突っ走っていた。僕らは背中を見ながら追いかけていた。やらなきゃいけないことをやりつつ、真摯(しんし)にたたき壊しながらできるか、という作業を日々やっている。芝居では藩主と家来の関係はあるが俳優にはない。横綱だろうが平幕であろうが、まわしを付けて、塩をまいてあたるのと一緒。僕は幕下、十両時代もそうだった。同じように今もやっているつもりです」

 来年は人生の節目の60歳。俳優としてどう生きる。

 「渡辺謙はこういう俳優なんだというのは、うれしくないんです。だから『えっ、あんなこともやるの』と言われるくらい、肉体的にはできなくなっても精神的にはフットワークを軽くしていきたい」

 かつてNHK幹部は、大河や朝ドラは、野球で言えば局の3番、4番打者と言っていた。

 「大河、朝ドラに出るのは他とは違う。気概みたいなものを持って僕も入った。この伝統は失わないで欲しい。よぼよぼで白髪になってもまた出たい。思いもかけない役がいい」

 常に新たな自分を追い求める姿勢が、今の渡辺謙を築いた原動力なのかも知れない。

 ◆渡辺謙(わたなべ・けん)1959年(昭34)10月21日、新潟県生まれ。04年米映画「ラストサムライ」でアカデミー賞助演男優賞候補。15年に米ミュージカル「王様と私」に出演、トニー賞の主演男優賞候補に。大河ドラマは84年「山河燃ゆ」、87年「独眼竜政宗」、93年「炎立つ」、01年「北条時宗」、18年「西郷どん」。89年、急性骨髄性白血病、翌年復帰し、5年後に再発も克服。16年2月に早期の胃がん発見。手術後、同3月復帰。05年女優南果歩と結婚。長男は俳優渡辺大、長女は女優杏。血液型A。