1972年の映画「木枯し紋次郎」、91年「新・極道の妻たち」などで知られる、中島貞夫監督(84)の20年ぶりの長編劇映画となる「多十郎殉愛記」製作発表が21日、都内で行われた。

 中島監督は98年の「極道の妻たち 決着」以来の劇映画を監督した理由について「(日本で最初の職業映画監督の)牧野省三監督が、相当な苦労をして映画のパフォーマンスとして、ちゃんばらを確立したのですが、消えていこうとしている。京都撮影所育ちで、非常にこだわりがありまして、何とかしたい…これをやりたい、やってみようと」と時代劇、ちゃんばらの継承が目的だと語った。

 主人公の清川多十郎を演じる高良健吾(30)は「時代劇の予習もして、殺陣の準備もして、現場でどれだけ自分が出せるかと思ったけれど、現場で教えていただいたことがたくさんあった」と語った。具体的に学んだことについては「殺陣というものは思いやり、信頼がないと出来ない。相手をケガさせちゃダメ、ケガしちゃダメということ」と語った。監督から「高良ちゃん」と声をかけられると「高良ちゃんと言われると、キュンとします…女性にも言われないので」と照れた。数馬役の木村了(30)も「数馬と言われたのが木村ちゃんと呼ばれ、グンと距離が詰まった」と笑った。

 おとよ役の多部未華子(29)は「お着物を着て芝居するのが久しぶり。立ち方、動き方の細かい演技指導がありましたし、分からないところがあった。細かい動きが勉強になった」と、時代劇の神髄を学んだ喜びを口にした。そして「何より、感じたのは監督の人柄というか、スタッフ1人1人が監督のために頑張る、監督が好きだからそこにいる…監督のために頑張りたい気持ちがドンドン強く、返さないとという強い気持ちに毎日なれた。すごく不思議な感覚ですし、監督のことを毎日、毎日、思いながら現場にいられたのは幸せ。『これは一種の恋だよね』と高良君と話していました」と言い、笑った。高良も「恋ですね」と笑みを浮かべた。

 中島監督は、衰退の一途をたどる時代劇の今後に期待することは? と聞かれると、「京都の映画界そのものが、時代劇中心でやってきた。そこが壊れると日本から時代劇がなくなる。60何本、撮っていますけど、はるかに現代劇が多い。時代劇の見せ場である立ち回りを、ある時期に押さえていかないと消えていってしまうという危機感があった」と強調。その上で「立ち回りをどう見せるか、生きるか死ぬかの戦いが1つあることで、ドラマがあり、キザないい方ですが愛がある。そこを押さえたドラマ作りをした」と今回のこだわりを、改めてか会った。

 その上で、弟子の熊切和嘉監督(43)が監督補を務め、指導した大阪芸大の学生らが手伝いをしてくれたことに触れ「熊切や大阪芸大の子が現場に来て、いろいろ助けてくれ、学んでくれた。多分、今回やったことが無駄にはならないと確信しています。若い人たちに面白さが、ぜひ伝わって欲しい。時代劇を作っていける状況を作っていきたい」と力を込めた。

 高良は会見の最後に「今のこの時代の時代劇の限界に挑戦したのではなく、今の役者が肉体の限界に挑戦した。1つ1つ、こだわり抜いて作った時代劇。時代劇が好きな方に、細かいところにこだわっていると思ってもらえると思う。自信があります」と胸を張った。

 会見では、「多十郎殉愛記」が10月11日に開幕する、京都国際映画祭でワールドプレミア上映されることも併せて発表された。