仲代達矢(86)が無名塾公演「ぺてん師 タルチュフ」(10月26日~11月3日=石川・七尾市の能登演劇堂を皮切りに全国巡演。東京は来年3月8~15日=池袋サンシャイン劇場)に主演する。

フランスのモリエールの傑作古典喜劇で、60年前から温めてきた舞台だ。「今やらないと、もうできないかもしれない。途中で倒れても頑張ろうと思う」と、決意を明かした。

俳優座に入って3年目、25歳の仲代は毎日、舞台袖から師匠で、俳優座創立者の演出家で名優の千田是也さんが演じる「タルチュフ」の演技にくぎ付けになった。「旅公演で1年間全国を回った。強烈な印象で、いつかやりたいと思った」。

それから60年。「役者としての晩年を迎え、今やらないと、もうできなくなるかもしれないと思った」と挑戦を決意した。10月の石川・能登演劇堂を皮切りに、来年3月の東京公演まで、全国35カ所、78ステージの長丁場。「途中で倒れても頑張ろうと思う」。

仲代が演じるタルチュフは信心深い男を装って、金持ちに取り入り、財産だけでなく、若い娘をも手に入れようとするペテン師。「政治家でも、質問をはぐらかしてかみ合わなかったり、現代の日本でもあちこちで見られる風景で、ペテン師はいっぱいいるし、タイムリーだと思う。だまされてもしょうがないと思わせる演技、しゃべり芸を見せたい。シリアスな役などいろいろな役をやっているが、喜劇は好きなんです」。

チラシ用の写真撮影では、ノーベル賞受賞の物理学者アインシュタインの有名な変顔を参考にした写真も撮り、自主的稽古も始めた。「毎日30分以上歩いている。86歳の割に体は動く方だと思うけれど、年を取れば取るほど、足腰も弱くなり、記憶力も落ちてくる。せりふを覚えるのも、若い人の10倍時間がかかる」。せりふを書き出して、寝室などの壁に張り、一日中、せりふ漬けになっている。

都内に無名塾の稽古場「仲代劇堂」を建てた時の4億円近い借金も20年かけて完済した。「もう重荷はない。若い塾生と一緒に、役者として生涯修業ができるのは幸せです」。全国巡演中の12月に87歳となる。「仲代も老けたなと思われるのは嫌だし、僕の中では、まだ60ぐらいのつもり。まだやりたい作品はいっぱいある。90歳を超えても舞台に出た新国劇の島田正吾さんや杉村春子さんのように、90歳になっても舞台に立っていたい」と、舞台への熱い思いを明かした。【林尚之】