大麻取締法違反容疑で逮捕された伊勢谷友介被告(44)が出演した映画「とんかつDJアゲ太郎」が、予定通り10月30日に公開されることになった。他の出演作「十二単衣を着た悪魔」「いのちの停車場」もそれぞれ11月、来年の公開が決まった。

「本人に罪はあるが、作品には罪はない」という考え方は理解できる。が、逮捕からわずか数日で「予定通り公開」の結論に至った背景に「大麻だったから」があったと考えるのはうがちすぎだろうか。これが覚醒剤だったら状況は違ったのではないかと思う。

どちらも犯罪であることに変わりはないが、その依存性については違いがある。大麻は「強い」、覚醒剤やコカインは「非常に強い」と言われている。

公開のスピード決定は、いみじくも違法の先にある「もう1つの一線」を浮き彫りにしている。

一般人なら、それが大麻であっても、1度の過ちで職も社会的信用も失ってしまうのだから、その違いを書くのははばかられるが、芸能界では明確な差があるのも事実だ。

固有名詞を挙げることは避けるが、過去の取材経験からすると、大麻関連で逮捕された芸能人の場合は半年程度で現場復帰。一定期間をおいて、もっともハードルの高いCM出演まで果たす例も少なくない。一方で、覚醒剤の場合は再犯を繰り返す例が目立つ印象で、一線復帰は至難の業だ。コカインはその中間といったところか。

3分の1強の州で大麻が合法化されている米国では、映画の中での描写にも、はっきりとした「一線」がある。

まっとうな主人公が過去の大麻体験を口にしたり、実際に息抜きに一服するシーンは決して珍しくない。これがコカインやスピードと呼ばれる覚醒剤になると、やるのは悪役か、ダーティーな異色のヒーローに限られる。

そして禁止薬物のオーバードース(過剰摂取)による死は嫌というほど頻繁に登場する。大麻で人が死ぬ場面にはお目にかかったことがないから、これにはヘビーな薬物への警鐘という意味合いがあるのだろう。

まさか米国映画の影響ではないだろうが、この5年間で見る限り、日本の覚醒剤事犯の摘発人数が減少傾向にあるのに対し、大麻事犯のそれは増加傾向にある。大麻はよりヘビーな薬物への入り口となるゲートウェイ・ドラッグと呼ばれているだけに看過できない傾向である。

一方で、覚醒剤事犯は昨年も1万人を超え、総数では依然として大麻事犯の3倍近い。芸能界の復帰例も少ないように、人生そのものを破壊しかねない薬物である。そこは米国映画の「警鐘」を素直に受け止めるべきだろう。

復帰例が多いのは悪いことではないが、日本では大麻も決して許されない犯罪であること。そして、その先にはさらに恐ろしい「一線」があること。伊勢谷被告の出演作が早期に公開決定された背景に思いを巡らせれば、改めて2つの戒めが浮かび上がる。【相原斎】