プロデューサーで監督の角川春樹氏(78)が、最後の監督作と公言する「みをつくし料理帖」が公開された。70、80年代に「風雲児」と呼ばれ、麻薬密輸事件による約10年間のブランクもあった。このほど取材に応じた角川氏が語った作品に込めた思いなどをニッカンスポーツコムで4回にわたって配信します。最終回は「『女房』と『息子』からもらったパワー」。

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角川春樹氏と一見ミスマッチと思われる人情物語「みをつくし料理帖」の映画化は、実は難航した。背中を押したのは、6度目の結婚となった元歌手の明日香夫人(32)だ。

「検討状態が2年も続いていた映画会社もあったからね。それで2年前の8月、女房が突然『あなたが監督して実現するべきよ』と言った。プロデュースすることばかり考えていたから『監督』は念頭になかった。その手があったか、と。撮影に入る前には女房から2つ言われたんだよね。1つは妥協しないように。もう1つは、悔いのないように。だから絶対現場で妥協しない、と決めて入ったんです」

これまで、神懸かり的な独断で事を進めてきた角川氏が、今回は何度も「女房」を口にした。夫人の後押しによる強い思いはスタッフにも伝染した。

「助監督だけじゃなくて、小道具、結髪…毎日のようにスタッフからアイデアが上がってくる。それを取捨選択する毎日でした。44年の映画生活の中で、そんなこと1度もなかった。1日掛かりの撮影を、フイにする大きなミスは2度あった。目をつぶることも出来たけど、そういう局面になるたびに女房の言葉を思い出して一から撮り直した。実は大きなミスをした助監督がクランクアップの日に号泣したんだけど、あの涙は現場の熱量を実感していたからだね」

撮影開始前から、体力づくりのためのジムを自分に紹介したのも夫人だった。

「同じジムに(タレントの)YOUが通っているんだけど、彼女から『不祥事やらで人気の落ちたタレントには、割り切って3年沈んでなさい、と言っている』という話を聞いて、ふと思ったんだね。私の場合は(麻薬取締法違反で)10年間沈んでいたわけだから。3年どころか、10年となると浮力が付いてくるのも確か。復帰後に私が出た(情報)番組は始まって以来の視聴率をはじき出した。ジム通いは、体力だけじゃなくて、そんな浮力も実感させてくれた。実はボクシングにもはまって、今でも週2日7時間はトレーニングしている。女房もそこまでやるとは思ってなかっただろうけど」

学校行事優先の生活を送るほどの愛情を注いできた息子も7歳になった。

「寝る前に読み聞かせをするんだけど、最近は自分でも読めるわけだから『パパ、暑苦しい』とか厳しいことを言われるようになった。似たもの親子だね」

「似たもの」という理由には角川氏同様の「霊感」の強さもある。

「3歳の時、シッターさんに預けて夫婦で食事に出掛けたことがあった。帰ったら、シッターさんの行動メモに、彼の発言として『ママ、シャンパン。パパ、バーボン』というのがあった。その夜の外食で私たちの飲んだ物なんだよ。3歳だからシャンパンもバーボンも知るわけがない。そんなことが何回もあって、女房が独身時代に乗っていた車の話までするから、生まれる前から見ていたのか、と。そんな彼が、撮影現場に遊びに来て、『パパ、みをつくし-は当たるから』と言ってくれた時は、ちょっとうれしかったな(笑い)」

6度の結婚歴の中で、最初の3人の妻との間にそれぞれ1人ずつ子どもがいる角川氏だが、あらためて、血は水よりも濃し、を実感しているようだ。(おわり)【相原斎】