今年に入り、米国の招待制音声SNSアプリ「Clubhouse(クラブハウス)」が、日本で急速に普及している。アプリはiPhone版のみ、使用できるのは18歳以上、登録には本名が必要など条件があるが、各ユーザーが立ち上げたルームの中で興味のある話を聞くことができる。自分が語りたいことがあればルームを立ち上げ、入室したリスナーと直接、交流もできる。ルーム内での内容は、事前許可なしに録音、記録したり口外するのは禁止されており、アーカイブスとしても残らないため、その場でしか聞けないトークというのも魅力だ。

インターネットラジオで2年9カ月、番組のMCをしたことがあり、興味が湧いた。番組終了から7年ほどたつが、その間、何人かのリスナーから再開のリクエストをいただいた。また、レギュラーを含め幾つか、ラジオ番組への出演のお話もいただいてきたが、タイミングが合わずにお断りしてきた。そうした経緯もあり、昔の番組でやったようなトークでもしてみようかと、取材を通じてお世話になっている関係者に招待してもらい、始めてみた。

まずは、幾つかのルームを回ってみた。ルームを立ち上げたモデレーター方の、専門性の高い話に刺激を受け、学びも多かったが、始めて1週間も過ぎたあたりから、周囲から「疲れた」という声が聞こえてきた。理由としては

<1>自らの知識や経験を発信することに力が入りすぎ、押し付けがましいトークをしている人が少なからずいる。

<2>議論をし合うのはいいが、互いにマウントを取り合っているのを聞いていて、息苦しい。

<3>ただ聞いていたいのに、モデレーターからスピーカーに指名され、しゃべるよう求められる。

<4>自分がモデレーターとして立ち上げたルームに、学校や会社の先輩、同僚がリスナーとして入ってくると、監視されていると感じたり、スピーカーに指名しないとマズいのでは、などとプレッシャーを感じる。

などが多かった。特に<1>、<2>は同感だった。

そうした中で連日、楽しく聞くことが出来るルームを発見した。安田大サーカスのクロちゃん(44)と高橋みなみ(29)が、18日までに20日連続で配信しているルーム「●時だョ! 全員集合だしん!」だ。取材を通じて以前から親交があるクロちゃんのルームということで聞くようになったが、明るく、かつ柔らかな2人のトークにひかれ、取材や執筆がないタイミングで聞くようになった。そんな中、後輩の記者から2人の対談企画の提案があり、17日に都内で取材した。

クロちゃんは対談の中で「僕らのトークには、いつも(有益な)情報はない!」と笑いながら言い切った。ただ、その言葉とは裏腹に、ルームを続けるにあたり明確なコンセプトがあることを明かした。

クロちゃん (Clubhouseには)まだ(楽しむための)ルールがないんだと思った。ルールがない中で、自分たちの楽しいルールを決めたら、というのを話した。

高橋も、クロちゃんに続いた。

高橋 知識を共有し合ったり、討論するのもおもしろいのですが、そればかりだと聞きに来てくれる人も、やる人も疲れてしまって、長期でやるのには向かないのかなというのも分かってきました。なので私たちは、小難しい話をすることはなしにして、日々あることを、ダラダラ話すのがいいと思ってやっています。

「ダラダラ話す」というが、2人の配信には一定の流れがある。クロちゃんが「2人でしゃべるのをメインにした」と語るように、内容は2人のトークがメインで、リスナーの中にビビる大木ら親交の深い芸能人がいても配信の中盤まではスピーカーに引き上げない。高橋は「初め15分は2人…そこから(他の人を)上げて」と説明した。

スピーカーに上げる人数も「マックスは5」(高橋)と決めているという。高橋は「いろいろなルームを見た時『あぁ、どうぞ』と(スピーカー同士がかぶるのを聞いて)ストレスがあった」と語った。ルームの体裁、色、流れ…「ダラダラ話す」という言葉とは裏腹に、しっかりとルールを決めている。「ラジオの構成と近い」という高橋の言葉を聞き、心から納得した。

この原稿は、18日午後10時から配信された「22時だョ! 全員集合だしん!#20」を聞きながら執筆した。普段、何かをしながら原稿を書くことは一切ないが、高橋とクロちゃんの柔らかなトークと明るい笑い声を聞いているうちに、肩の力が抜けて1日の取材の疲れが取れた。そして、この日も途中からスピーカーとなった、ビビる大木を交えた3人対談も、どこかのタイミングで実現できたら、と思った。

記者も映画を語り合うルームを複数回、立ち上げ、ゆるく、楽しくをモットーに映画業界関係者、ファンと交流した。今後も開催予定なので“クラブハウサー”たかみなとクロちゃん…いや「黒川さん」から学んだことを実践し、日々取材する映画の素晴らしさを伝えたい。【村上幸将】