約5年ぶりのオリジナルアルバム「あなたになりたかった」を発売したシンガー・ソングライター平井堅(49)をロングインタビューした。

ライブ取材などで話を聞く機会はあったが、じっくりと腰を据えて話を聞くのは、14年以来7年ぶり。音楽業界もこの期間に大きく様変わりしたが、時代の変化ともうまく付き合いながら、常に自らと向き合っている姿は、当時も、25周年イヤーを終えた今も変わらないようだ。

当時、自らを「クソ凡人」と称していたが、初めて日本語にした今回のアルバムタイトルも「あなたになりたかった」。それも散歩をしながら「常に誰かをうらやんで、ねたんでいる人生」だと実感して、つけたという。

周囲から見ると、この25年で、歌い手として年々存在感も増し、唯一無二の地位を確立しているようにみえる。今回のアルバムに収録された「鬼になりました」には、「吹けば飛ぶような1K」という歌詞がある。長年苦楽を共にするスタッフからは「平井堅、もっといいところ住んでるじゃん! 嫌みっぽい」と指摘されたというが、常に平井の心にあるのは「歌い手として、語り部として、どこか地球の片隅で生きている人、そういう人を捉えて、見つめて、歌にできる…。それを歌っていい歌手になりたい」という思いだ。

建前ばかりでなく、どんな人間も持つ、それはドロドロとしたものも含めた本音、リアルが投影されるからこそ、平井の曲は人々の心を震わせるのだろう。

サブスク時代となり、曲単体が注目されたり、SNSから誕生するアーティストも出現する中で、「平井堅」という歌手の価値も、見いだすことができたという。

「気が小さいし、すぐヘナヘナってなっちゃうんだけど、ぎゃふんと言わせてやるぞみたいな気持ちが活動の原動力になってます。1曲1曲、本当にこの言葉でいいのか? このメロディーでいいのか? というのを妥協することなく作っていくことでしか、自分の価値を担保するものはないので」

来年1月には50歳を迎えるが、“とても凡人とは思えない凡人”が、これからも多くの人を魅了していくだろう。【大友陽平】