「夢だったので、出演が決まった時はマネジャーと抱き合って泣きました」。09年、ミュージカル「レ・ミゼラブル」にコゼット役で初出演した時の取材で、神田さんは振り返った。「松田聖子の娘」の枕詞(まくらことば)が常について回った。しかし、同作は海外スタッフのオーディションで出演を決めるため、忖度(そんたく)はなく、実力で勝ち取った。14年、ディズニーアニメ映画「アナと雪の女王」でアナを演じて大ヒットした直後に取材した時も、同じ言葉を聞いた。「オーディションに参加できただけでも良かったのに、出演が決まって泣いて喜びました」。

1人の女優として認められたことがうれしかったのだろう。「重いリュックを背負っている気がした時もあったけれど、今はリュックを背負っていたとしても、私を見てもらえたらいい、と思うようになった」とも話した。その後はミュージカル女優として快進撃が続いた。17年に主演ミュージカル「キューティ・ブロンド」のヒロイン、エルの演技で菊田一夫演劇賞を受賞した。「自分が選んだ大好きな道を少しだけ誇れるような気がします」と泣いた。18年に尊敬する女優で「ママ」と慕う大地真央が演じてきたミュージカル「マイ・フェア・レディ」にイライザ役で主演した。「決まった時は絶叫して泣き崩れました」。節目のたびに泣いたけれど、幸せなうれし涙だった。

演じた役は前向きに生きる女性が多かった。エルは持ち前のポジティブさで周囲の偏見を吹き飛ばし、イライザは下町の花売り娘から華麗な令嬢に変身する。見ていてハッピーな気持ちになり、神田さんの歌声と笑顔が役にぴったり重なった。

今年はCMでデビューしてから20周年。母の影が消えた神田さんがさらに飛躍する通過点のはずだった。神田さんの舞台に笑顔になり、励まされた多くのファンが、今は悲しみに泣いている。【林尚之】

 

 

◆主な相談窓口

・いのちの電話

ナビダイヤル=0570・783・556(午前10時~午後10時)

フリーダイヤル=0120・783・556(午後4時~同9時。毎月10日は午前8時~11日午前8時)

・日本いのちの電話連盟 https://www.inochinodenwa.org/