ロシア人の映画監督キリル・セレブレニコフ氏(52)が19日、フランス南部で開催中の第75回カンヌ国際映画祭で公式上映後に記者会見を行い、ロシアのウクライナ侵攻には「反対だ」と述べるとともに、ロシアの芸術映画を支援するオリガルヒ(新興財閥)のロマン・アブラモビッチ氏に対する制裁解除も訴えた。

セレブレニコフ監督の最新作「チャイコフスキーの妻」は、最高賞パルムドールを争うコンペティション部門にノミネートされている。同監督はまた、ロシア文化へのボイコット運動に対する複雑な心境も明かした。

ロシアのウクライナ侵攻を受けてオーナーを務めていたサッカーのイングランド・プレミアリーグの強豪チェルシーを売却したアブラモビッチ氏は、ロシアのプーチン大統領と近い関係にあるとされることから欧米諸国の制裁対象となり、資産が凍結されている。

一方で、同氏はチェルシーの売却で得た利益を全額ウクライナの戦争犠牲者に寄付することを表明しているほか、ウクライナ側の要請でロシアとの和平交渉にも関与しており、ウクライナのゼレンスキー大統領がバイデン米大統領に同氏に対する制裁を科さないよう求めていたことで知られる。同氏を巡っては、3月初めに行われた和平交渉の場で毒物攻撃を受けた疑いも持たれている。

セレブレニコフ監督は会見で、アブラモビッチ氏は長年にわたってロシアの芸術映画に資金提供をしてきたと述べ、「彼は長年、現代アートを支援し続けている。援助に非常に感謝している。それらはプロパガンダ映画ではなく、まったくその逆のものだ」とコメント。

ロシア側との交渉に有益な人物であるとゼレンスキー大統領も認めていると述べ、西側諸国に対して同氏への制裁を解除するよう求めた。

人々は音楽、演劇、映画を奪われるべきではないと述べ、「ロシア文化に対するボイコット運動については理解はできるが、ロシア文化は常に人間の価値観を大切にしており、拒否されるのは耐え難い」と述べた。

同監督は2017年にモスクワの劇場ゴーゴリ・センターの資金を横領した容疑で逮捕され、20年に有罪となったことでロシア国外への出国が禁じられていたが、6週間前に出国が認められたことでドイツ・ベルリンに渡っていた。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて今年のカンヌ国際映画祭ではロシアの公式代表団並びにロシア政府の関係者の出席を拒否する立場を表明しているが、プーチン政権に批判的な姿勢で知られるセレブレニコフ監督の参加は認められた。

17日の開会式では、ゼレンスキー大統領が事前予告なしにビデオ演説を行い、「映画界は沈黙していないことを証明する新しいチャプリンが必要です。私たちには、いつも最後に自由が訪れることを示す映画が必要」などと語り、観客からスタンディングオベーションが送られていた。(ロサンゼルス=千歳香奈子)