マジシャンとして活動しながら20年間海外に滞在し、“人力”世界一周に挑戦中の岩崎圭一氏(49)が、イギリスのお茶の間を沸かせている。同国の人気オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント(BGT)」予選で、準決勝へ一発通過を決める「ゴールデンブザー」を日本人で初めて獲得。日刊スポーツのリモート取材に応じ、旅の動機や展望を語った。

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常に謙虚で丁寧な語り口からは、人柄の良さがあふれている。「今はスマホで両親ともビデオ通話できますし、遠さを感じないんです。宇宙から見たら国境もなく、地球が故郷というか…。『ガンダム』世代なので」と笑った。

01年4月、160円をポケットに入れて、実家がある群馬・前橋を飛び出した。28歳の春。「このままでは人生がすぐに終わってしまう、だったら自分の好きなことをしようと思いました。褒められたものではないですね」と照れ笑いした。東京・新宿でのホームレス生活を経て、ヒッチハイクで日本一周。翌年、知人からチケットを譲り受けフェリーで韓国に渡った。

中国で3000円で自転車を購入。エベレストを見てふと思い立ち、海抜0メートルから自転車と徒歩で登頂。その後今度はインド・ガンジス川を手こぎボートで下って海抜0メートル地点へ。さらにカスピ海もボートで横断し、ついにユーラシア大陸を横断。「世界最高峰とか、世界最大とか。やっぱり興味引かれますよね」と少年のように振り返った。

基本的には“無銭”を掲げ、行く先々の路上でマジックを披露し、日銭を稼いでは自転車で次の町に移動した。「イタリアで大道芸の盛り上がり見てから、もっと芸を磨こうと決意しました」。13年以降は欧州に滞在。「BGT」でも披露し、観客や審査員の度肝を抜いた指輪空中浮遊のマジックが生まれた。

武者修行を兼ねて欧州各国の「ゴット・タレント」派生番組に出演。そして歌手スーザン・ボイル(61)を生んだことでも知られる世界的番組「BGT」に応募した。目的は「大西洋を手こぎボートで渡る資金を稼ぐため」。見事予選通過を決め、現地時間5月30日から数日間、生放送される準決勝に挑む。「『BGT』は本当にレベルが高い。果たしてどこまで通用するか」と慎重だが、日本人初の決勝進出も期待される。

「やっぱり人を笑顔に、楽しませるような芸がしたいです。人を笑わせることが好きなので、このままできる限り、世界のより多くの人の笑顔を作っていけたらいいなと思っています」

「ケイイチ・イワサキ」の名前が、たくさんの笑顔とともに広がっていく。【横山慧】

◆岩崎圭一(いわさき・けいいち)1972年(昭47)9月20日、群馬県生まれ。中学時代に授業で先生から見せられた手品に影響され、趣味でマジックを始める。1日7~8時間は路上に立って手品をする。日常会話程度であれば10カ国語を操る。169センチ。血液型B。

◆ブリテンズ・ゴット・タレント 07年にスタートした人気オーディション番組。毎年1万組以上が応募し、優勝賞金は25万ポンド(約4000万円)。初代王者のポール・ポッツはじめ、多くの歌手やタレントを輩出してきた。14年から導入された「ゴールデンブザー」は、音楽プロデューサーのサイモン・コーウェルら4人の審査員と司会者アント&デックの計5組が1シーズンに1度だけ押せ、「人生が変わるボタン」とも呼ばれる。