歌舞伎俳優中村京蔵が、フランス古典悲劇の名作「フェードル」に、歌舞伎をベースにした和様式での上演に挑む。19~20日の東京・国立劇場小劇場での上演を前に、このほど日刊スポーツの取材に応じた。

ギリシャ神話を背景に、ヒロインのフェードルが、義理の息子に恋し破滅に至る物語。学生時代に初めて触れたが「壮大な話で、政争も絡むので、とてもたちうちできる戯曲ではないと、心に鍵を掛けて封印していました」と振り返る。

その後、蜷川幸雄氏が手がけた「NINAGAWA・マクベス」の初演を見て、15年に再演に出演したことで、海外古典を和様式で上演するヒントを得た。

3年前、蜷川氏の演出助手を務めてきた演出家大河内直子氏に相談し、「フェードル」の準備が本格的に始まった

共演者の多くは実際に舞台を見て出演交渉した。フェードルの夫テゼを演じる池田努もその1人。京蔵は「ちょうどテゼを探していた時に池田さんの舞台を見たんです。芝居センスがあり、スケールも大きくすばらしい。直感でいいな、と思いました」と話す。

コロナ禍もあり、準備開始から3年越しの上演となったが、所作指導などは入念に行うことができたという。かつら、衣装にもこだわった。京蔵は「師匠(4代目中村雀右衛門)はいつも、衣装、かつら、大道具は一流のものを、と言っていましたので」と言う。

今「フェードル」を上演する意義を聞くと、「こういう壮大なお芝居って、最近はあまり上演されません。いろんなことがあってつらい世の中ですから、ハッピーなものをやった方がいいのかもしれません。アンハッピーなお話ですが、こんなに大きなスケールのお話もあるということを知ってもらいたいです」と話す。

半世紀近く心に抱いてきた作品がいよいよ上演間近となり、京蔵は「無謀な計画でしたが、やるからには後には引けません。稽古していてもとっても楽しいので、ぜひご覧いただきたいです」と目を輝かせる。

「中村京蔵 爽涼の會『フェードル』」は、19~20日の2日間3公演。