元宝塚歌劇団雪組トップの望海風斗が、舞台「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」(東京・帝国劇場)でサティーン役を平原綾香とダブルキャストで熱演している。このほど、30日のラスト出演(31日千秋楽)を前に、今作への意気込みや伝えたかったことについて語った。【高橋洋平】

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6月29日に本公演が開幕して1カ月以上が過ぎた。

「もう1カ月たっちゃったんだっていう気持ちがすごく強いですし、そうなるとあと少しかないんだっていう寂しさもあったり。でもいい意味で、新鮮さを毎日持って公演できています。1カ月たっても、まだ新鮮に公演できてるって、すごくうれしいことだなと思っています」

ダブルキャストによって、日々組み合わせが変わってくる。

「どの役もアンサンブル以外ダブルキャストなので、毎日同じ組み合わせで公演することがないんですね。毎日違う人が現れて、違う人と芝居するというか。1人変われば全然変わるので、そういう意味では本当にいろいろなパターンがあって、それが新鮮さにつながっています。あとはやっぱりお客さまも本当にミュージカルがお好きな方もたくさん来てくださいますし、ファンの方も来てくださいますが、『ムーラン・ルージュ』だから見たいって思って来てくださる方とか、普段あんまりミュージカルを見なくても、ちょっと気になるからと思って来てくださる方もいたりとかして。お客さまの反応もすごく新鮮さにつながっているんじゃないかなと思います」

恋人役のクリスチャンは井上芳雄と甲斐翔真が務めている。同じ役だが、2人の個性は全く違うという。まずは“井上クリスチャン”の印象を語り始めた。

「井上さんのクリスチャンはエネルギーに満ちあふれていると言いますか。どんどん引き込まれていってしまうというか、ものすごいスピードで見せてくれるのが井上芳雄さんのクリスチャン。気づいたら空を飛んでいるという感覚というか、全然違う場所にいるんじゃないかとか。そういう魔法をかけてもらっている感覚がすごくあります」

“甲斐クリスチャン”についても、細かな分析を披露した。

「甲斐翔真くんのクリスチャンは本当に等身大で真っすぐ、サティーンにだけに向かってきてくれる部分があって、同じセリフ、同じ歌でも全く違っていて。でもどっちもクリスチャンで、どっちも本当に心を揺さぶられる。最後に向かっていく感じも2人とも違う。おふたりとも歌のアプローチも全然違うので、それもまた面白いです」

一方、“平原サティーン”も実際に稽古や公演で見たという。自身との違いについても明かした。

「平原さんは歌手でもあって、やっぱり音楽に対しての信念がものすごくある方。お稽古中や近くで同じ歌を聴けるっていうのはすごく勉強になりました。でもキャラクター的に持っているものが全く違うので、そういう意味では見てて、全く違うサティーンとして見られる面白さはすごくあります。あーや(平原の愛称)は母性と言いますか、本当に太陽のような人ですし、包み込む包容力と、何があっても大丈夫みたいなどしっとしたものもあります」

“望海サティーン”としての自己評価についても語った。

「私のサティーンはどうなんだろう。最後に向かっていくエネルギーっていうのは、今まで宝塚時代から積み重ねてきたものに近いものが、今回のサティーンで出せているんじゃないかなっていう部分があって。やっぱり限りがあるからこそ、そこに命を輝かせていくというか、命を燃やしていくというサティーンになれているんじゃないかなと。あと(サティーンが)やっぱり知らなかったものを知っていく楽しさっていうのは、宝塚を辞めて今2年目なので、本当にそれがリアルに毎回ステージで行われている感覚はありますね」

当然ながら、宝塚で培った経験は今も生きている。

「宝塚ではトップスターもやらせてもらったので、そういう経験は生きているだろうなと思います。あとはムーラン・ルージュというクラブを守るためにはどうすべきかということを常にサティーンも考えているという部分は、20年宝塚で下積みからやってきた宝塚や組への思いというものは、すごくサティーンにも生かせるところではあります」

宝塚時代は高い歌唱力を武器に男役を極め、一時代を築いた。女性を演じる際の違いはあるのだろうか。

「宝塚の美学みたいなものがすごく染み付いちゃってて。宝塚時代って男役を格好良く見せるために、娘役さんがいろいろ頑張ってくれていた部分がありました。私もそうしなきゃみたいな気持ちが、どこかで無意識にあったりしますね。今これで大丈夫かなとか、輝かせられてるかなとか、これでちゃんとバランスよく見えてるのかなとか。そういうのをすごく気にしちゃう部分があって。でもそれって、そんなにいらないんじゃないかなって思い始めてきました。今は(相手は)本当にリアルに男性ですし、皆さん輝かれてるので、私がどうする問題でもないけど、すごく気にしてしまうのは宝塚の染み付いたものではあります。あとやっぱり男性の衣装とか男性の方のお芝居とか見て、ああいいなって思っちゃう部分はありますね。自分が戻れない世界なので」

今年の春にニューヨークのブロードウェーを訪れ、本場の「ムーラン-」を観劇していた。

「同じ作品をやるわけですし、先にやっているところを見ておきたかった。始まっちゃったらお客さんになれないので、それを見ておきたいなっていう部分と、英語ですしお客さんの楽しみ方も全然違うし、アプローチの仕方も全然違うんですよね。日本語になったらどうなるんだろうっていうのを思いながら見てましたけど、でもただ単純に本当に楽しかった。ブロードウェーのエネルギーみたいなものがすごく詰まっていて、ダンスシーンはものすごい迫力だったのでそれに感動しました」

本場を見たことで、こみあげてくるものがあった。

「これを日本でできるんだっていう感動がものすごくありました。これをこのまま日本に持ってくることができるんだ。しかもそのステージに立つ側になれるんだ、というのはすごくうれしかったですね。本当に日本でやれるんだという。だんだん実感湧いてきたという感覚でした」

作品を通じて伝えたかったことは一体何だったのか。

「ムーラン・ルージュというよりも、この作品を見てもらって、やっぱりミュージカルって楽しいなって思ってもらえるのが一番うれしい。このムーラン・ルージュという作品の中で何か伝えたいっていうことがあれば、やっぱり誰かを愛して、そしてその人に愛されることが一番の幸せっていうのはありますね」

「ムーラン-」との出会い、サティーンとの出会いが成長につながったと自信を持って言える。

「幅は広がりましたし、オーディションを受けた頃は宝塚を退団してそれほど時間がたっていなかったのですが、そこから私のサティーンはスタートしていて。この期間にすごく転換というか、男役から女性に変わっていくというのが目標でした。オーディションをきっかけに課題がいっぱい見つかったんですね。なので、それで常に走り続けられたというか、頑張れた部分があったので、だからサティーンを演じられたことが、自分にとってはものすごく大きな経験になりました。サティーンを演じたからこそ、またさらに見つかったものもたくさんあるので、本当にいい時期に、いい作品といい役に巡り合わせてもらったという感覚がすごくあります」

◆望海風斗(のぞみ・ふうと)10月19日、横浜市生まれ。03年宝塚歌劇団に入団し、同年に花組配属。09年「太王四神記」で新人公演初主演。14年11月に雪組。17年7月に同組トップ。21年退団。退団後はワタナベエンターテインメントに所属し「ガイズ&ドールズ」「DREAMGIRLS」などで活躍。今年、菊田一夫演劇賞、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。身長169センチ。愛称「だいもん」「ふうと」「のぞ」。24年2~3月にはミュージカル「イザボー」で主演。

◆ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル 1899年のパリ。アメリカ人作家クリスチャンは、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スター、サティーンと恋に落ちる。クリスチャンはクラブの経営危機を救い、サティーンの心をつかもうとする-。バズ・ラーマン監督の映画「ムーラン・ルージュ」(01年)をミュージカル化。18年のボストン公演を皮切りに、19年にブロードウェーで公演。トニー賞10部門。