谷村新司さんが10月8日に亡くなった。74歳だった。「チャンピオン」「昴-すばる-」「群青」「いい日旅立ち」「サライ」…。アリスでソロで、日本の、アジアの音楽シーンに確固たる足跡を刻んだ。

24年に延期されたアリスの全国ツアー「ALICE 10 YEARS 2023~PAGE1」の再開を心の支えに、闘病を続けていたという。22年にアリスの活動50年を迎え、メンバーの堀内孝雄(74)矢沢透(74)と共に、「ここからリスタートとして10年続けよう」と目標を立てた。全国ツアーのタイトルは毎年、「PAGE2」「PAGE3」と変わっていくはずだった。

アリスは谷村さんたち3人にとって「母船」だった。10年前の13年4月に、3人そろってインタビューした。26年ぶりのアリスのオリジナルアルバム「ALICE XI」を発売し、アリスとして09年7月以来となる全国ツアーを5月から行う直前のタイミングだった。ツアーは47都道府県を網羅していた。

この時64歳だった谷村さんは「(僕らの世代で)オリジナルのメンバーがそのまま残っているグループって、数えたらそんなにないんですよね。だからやれる時にやるというのが、僕らのアリスに対する礼儀なのかなという気がします」。

そして「ビッグネームのアーティストが来ない所にも待ってくれている人がいる。ずっと旅をしてきたグループだから、そのことはよく自分たちは分かっているので」と続けた。

その言葉を裏付ける逸話がある。なかなかヒットが出ず、ライブで自分たちと曲を知ってもらおうと、1年間に303回ライブを行った。デビュー3年目の74年のことである。移動を除けば、365日のほとんどがライブだった。谷村さんは「特急が止まる市の市民会館は、ほとんど行った」と話した。

山口(三浦)百恵さんの名曲「いい日旅立ち」に「ああ、日本のどこかに、私を待ってる人がいる」とある。谷村さんの旅の経験も込められた歌詞である。

堀内が歌手五木ひろしに言われた言葉を話してくれた。「ベーヤン(堀内の愛称)、いいよな、帰る場所があって」と言われたという。堀内は「人に言われて、そうなんだと思う。何も言わず、分かりあえる何かがある」と話した。

矢沢は「(アリスは)農作物を作るのと変わっていないと思うんです。農家をやめていて、またやっても、相変わらず土を耕して、いい作物を作ろうと思う。(アリスも)いいサウンドを作りたいと思っているだけです」と話した。

谷村さんが最後にこう続けた。「明日はあると思うけど、明日があるという保証は誰にもない。今後、絶対に悔いの残らないように、アリスのやるべきことをやりたい」。

来年に延期された全国ツアー「ALICE 10 YEARS 2023~PAGE1」の、1ページ目がめくられることはなくなった。でも、谷村さんは間違いなく悔いの残らないように、全身全霊で歌い、生きたと思う。永遠に残る名曲の数々を、ありがとうございました。【笹森文彦】