演劇界の鬼才、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(52)が、テレビ東京ドラマ24「怪奇恋愛作戦」(9日スタート、金曜深夜0時12分)で8年ぶりにテレビドラマの演出、脚本を手掛ける。恋する相手はみんな妖怪だったというアラフォー3人娘のナンセンスコメディー。「妖怪ブームとはまったく関係ない。じゃまです」と語るケラに、作品について聞いた。**********

 婚期を逃したアラフォー3人娘(麻生久美子、坂井真紀、緒川たまき)が、「負のオーラ」で人造人間、吸血鬼、妖怪などの化け物を引き寄せてしまうストーリー。爆笑の災難とともに、切ない恋物語が展開したりもする。ケラは「怪奇ものと恋愛ものを足したデタラメなコメディーです」と笑う。

 子供のころから怪奇ドラマが大好きだった。円谷プロの「怪奇大作戦」「ウルトラQ」や、水木しげるの実写版「河童の三平」「悪魔くん」などの世界観に触れてきた。ケラ「子供のころ、ぜんそくで寝たきりだったせいか、3歳から5歳くらいまでの記憶が異様にいいんです。あのころの特撮ものって本当に怖かった。『河童の三平』も、たたりで記憶をなくしたお母さんが無表情で馬車に揺られているインサートショットとか。子供向けなのに、夢でうなされる感じ。当時の記憶や感じたことが僕の作品のベースにあると思います」。

 大好きな怪奇ものを、持ち味のナンセンスコメディーに仕上げている。ケラ「笑いが好きだけど、安心して見られる笑いが好きなわけじゃなくて。ミエミエでバレバレなのに質問に答えない政治家とか、世の中の本質は不条理でデタラメなんだから。混沌(こんとん)としたものや、怖さと背中合わせの、ヘビーなものを笑う方が好きなんです。サザエさんみたいな健康的な笑いじゃなくて(笑い)」。

 番組資料には「『東京ラブストーリー』のような恋愛ドラマが展開する」とある。ケラ「麻生、坂井、緒川の3人娘で、昔よくあった、複数の男女の恋の行方を描くラブストーリーをやってみたかった。『ふぞろいの林檎たち』の山田太一的などろどろした感じの。恋愛モノに、ガラモンとか植物とか宇宙生物的なものが出てきたら面白いなと」。

 3人娘とかかわる刑事役を仲村トオルが演じる。各話のゲストも、小沢征悦、高橋ひとみ、成海璃子、萩原聖人、松尾スズキ、ミッキー・カーチスら豪華な顔ぶれ。キャスティングにはケラがすべてかかわった。ケラ「一緒に仕事をしたことがある、僕の知り合いばかりです。3人娘をはじめ、この人じゃないと困る人ばかり。うっとうしい笑いじゃなくて、しれっとコメディーをやれる人たち」。

 妻、緒川たまきとテレビドラマで組むのは初めてという。ケラ「緒川さんと一緒に仕事をしたくて結婚したようなものだから、全然やりにくくないです。とにかく3人娘のバランスが良くて、こちらの狙い通りで素晴らしい。3人で思い切り悲鳴を上げてもらっています」。

 アクの強いグロテスクなシーンなど、深夜枠だから成立する表現も多い。ケラ「ゴールデンでは絶対に無理だろうと思うけど、そもそも深夜でも大丈夫な内容なのかな(笑い)。演劇と違ってテレビはアクが薄まりがちだけど、僕はそこで及び腰になって中途半端なものを作ることは頭にないし、それだったらやらないですね。偶然テレビを見た人が『なんだこれ』という、衝撃の出会いを果たしてくれることを期待します」。

 妖怪ブームが続いているが、関係あるのだろうか。ケラ「まったく関係ないです。じゃまですね、あれは(笑い)。妖怪ウォッチも知らなかったし。マギー(ドラマ「地獄先生ぬ~べ~」の脚本を担当)にも言ったんですよ、『じゃまだよ!』って。ブームの流れで見てくれる人がいればいいなと思うしかないです」。

 伝えたいテーマは「ない」と爆笑する。ケラ「何かを受け取ってくれるのは勝手だけど、僕には何もないです。この作品から何かを受け取れたら見事なもんだと」。◆ケラリーノ・サンドロヴィッチ

 1963年(昭和38)1月3日、東京都生まれ。82年、ロックバンド「有頂天」を結成し音楽デビュー。85年に「劇団健康」を旗揚げし、92年の解散後、93年に「ナイロン100℃」を始動。99年「フローズン・ビーチ」で第43回岸田國士戯曲賞を受賞。06年にテレビ朝日「時効警察」(8話)などを手掛けている。