自民党総裁選の投開票まで1週間を切った。党内融和を意識するためか、候補者間の議論もどこか遠慮気味だったり、有力候補の1人とみられる小泉進次郎農相に、陣営の「ステマ指示問題」が表面化する想定外の展開も起き、展望が見通しにくくなっている。それでも、10月4日には石破茂首相に代わる新総裁が誕生する。少数与党なので、首相になれるかどうかは、野党との協力関係にかかっているのだが。
その石破首相に扮(ふん)した「ニセ石破」でおなじみの、社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」メンバー、福本ヒデ(54)が、「福本ヒデ展 永田町画廊」と題した個展を、東京・銀座の「銀座画廊・美の起原」で開催している(28日は休廊、29日まで)。安倍晋三元首相になりきった役でも知られる福本だが、実は、ニュースペーパーの公演で最初に演じた政治家は、石破首相だった。長期政権を築いた安倍氏と対照的に、わずか1年で政権の座を去る石破首相。「分身」として、どんな思いで見つめているのか気になり、画廊を訪ねた。
福本の作品は、世界的名画を独特の視点でアレンジし、時の首相や旬の政治家をモデルに風刺したものが多い。思わずくすっと笑ってしまうような政治風刺画で、評価も高い。これまで何度も個展を開催してきたが、今回はコロナ禍を挟んで6年ぶりに、花の銀座での開催となった。
石破首相が辞任表明をしてから書いた作品が多く、「鳥獣戯画」や「ムンクの叫び」や、東洲斎写楽の浮世絵といった、だれもが1度は目にしたことがある名画の「石破バージョン」のほか、石破首相と「年収103万円の壁」をテーマに痛烈な皮肉が込められた作品など、約60点が展示されている。
2003年にイラク戦争が起きた時、当時防衛庁長官だった石破首相に目がとまった。「なんだ? この防衛に詳しい、目つきの鋭い人は」。気になって仕方なかったが、ニュースペーパーでだれかが演じることになった際、「福本くんがやったら?」と、白羽の矢が立った。それまでは、秘書役やインタビュアーの役などが中心だったが、「『日本のとるべき対応は…』と、ご本人がテレビで言っているような感じで。口調があれだから、ウケましてね。そこから定期的に、ずーっとやってきたんです」と振り返る。
「私にとっては、原点なんですよ」とも述べた
銀座での個展開催は「なかなか勇気がいること」という。路地に面した1階の画廊での開催は初めてで、多くの客が足を運んでいる。今回の展覧会は約1年前から予定していたものだが、「思い切ってやってみたら、石破さんが辞めたタイミングに重なった。まさか、さよなら石破さんセールになるとは思いませんでした(笑い)」。
ファンが多い福本の作品の1つが、ピカソの代表作「ゲルニカ」に発想を得た「シゲルニカ」。さまざまな表情や動作の石破首相が1つのキャンパスに描かれたものだが、今回はそこに描いた石破首相をばらして、複数の作品に仕立てた。福本の「石破愛」が感じられる作品でもあるが、これまでに描いた作品も、「石破さんがいちばん多い」そうだ。ポスト石破の1人、小泉農相の作品も、ミレーの「種まく人」がテーマの「米まく人」や、マネの「笛を吹く少年」をモチーフにした「笛を吹いていそうな青年」があるが、石破首相の作品群の数には及ばない。
石破首相自身も就任前、福本の個展を訪れ、自身を描いた作品を購入したことがあるそうだ。自身の作品に「売約済」のマークが付いていたのを見て、満足そうな表情だったという。
そんな、創作意欲をかき立てられるキャラクターながら、自民党内の「石破おろし」の末にまもなく退陣する石破首相を「ある意味、自民党の犠牲者。やりたいこともできなかったですし」と評する。石破首相へのねぎらいのメッセージを問うと「『お疲れさまでした』と言われるのも、腹立つでしょうしね。それこそ、(伊東市の)田久保真紀市長みたいに、議会を解散したかっただろうし(笑い)。田久保市長がうらやましくて仕方ないんじゃないでしょうか」。熟考の末に出てきた言葉は、「ありがとうございました」だった。「石破さんのおかげで、自分ではできない格好や、活動もできましたしね」。
ザ・ニュースペーパーの公演では、今後も石破首相を演じ続ける。「これで封印です、なんてかっこいいことは一切やりません。いつまでもやります。安倍さんも、今でもやっていますし」。その上で、「こんなに『書きたい』と思わせてくれる政治家の方はいませんでした」と、風刺作家として惜別の辞を送った。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


