高市早苗首相(64)が「ロケットスタート」で走り出した。各社の世論調査でも内閣支持率は高い。高市首相が使ったバッグやペンが「早苗売れ」と呼ばれる現象を生み、時計やファッションなど身につけているものも注目される。女性初の内閣総理大臣誕生に、これまでとは違った関心が注がれていることを、実感している。
首相に指名される前の10月7日、自民党総裁となった高市首相は、新たな党役員人事の顔ぶれを決めた。当初は、「高市総裁」選出に大きな役割を果たした麻生太郎副総裁(85)や、旧安倍派幹部で裏金事件で多額の不記載額が確認された萩生田光一幹事長代行(62)の起用などに焦点が当たったが、新執行部から1カ近くがたった今、特に注目されているのは、高市氏が抜てきした鈴木貴子広報本部長(39)と感じている。
執行部の積極的な女性活用が念頭にあった高市首相自身が、「(就任を)頼み込んだ」と明かしている。貴子氏は、高市首相と総裁選で争った茂木敏充外相の側近で知られ、必ずしも発信力にたけているわけではない茂木氏の人間味を、SNSで猛烈アピールし、「意外と敏充」「やっぱり敏充」などのコピーも考案。茂木氏の絶大な信頼を受けている。茂木氏は総裁選で2年連続で敗れたものの、貴子氏の「名PR」ぶりを指摘する声は、野党関係者からも聴いた。貴子氏自身はX(旧ツイッター)に「高市総裁より直接『絶対に受けて欲しい』とお声を掛けていただいたからには、とにかく全力を尽くす」と書き込んだ。
貴子氏の就任で自民党の広報スタイルが激変したのは確かだ。党の公式Xに幹部会見の動画とともに、話した内容の書き起こしも合わせて掲載。この「書き起こし」は、共産党や、れいわ新選組が早くから導入し、自民党もかつて、メディア向けに発表していたこともある。録音技術は発達したものの、チェックの必要性もあり大変な作業だが、切り取りではない「一次情報」の発信強化という目的があり、貴子氏は「全文記載の試みは続けていきたい」としている。
貴子氏の父親は今年、23年ぶりに自民党に復党した鈴木宗男参院議員。宗男氏が再選された今夏の参院選でも、父のSNS発信を側面で支える貴子氏を目にしたことがある。現在の立場になった後は、党幹部の会見でも、会見場で見守る姿を目にする。発言データ録音のためのピンマイクを外し忘れ、「ピンマイク持ち逃げ」とネタにされた小林鷹之政調会長が先月24日、党本部で初めての定例会見に臨んだ際も、会見場の後方に貴子氏の姿があった。
こうした「貴子方式」にならうように、小林氏も、新体制での自民政調の方針を「オープン」「スピード」「発信力」と述べ、「自民党のサイドからどんどんみなさんに発信をしていく意識をしっかり持つようにということで、私の方からも指示を出させてもらった」と訴えていた。
広報戦略の変化は、党の置かれた苦境の裏返しでもあるはずだ。自民党は昨年の衆院選以降、さまざまな選挙で敗北を続け、党の支持率も低下。まだ「V字回復」には至っていない。
自民党の広報戦略の変化は、過去にも「苦境打開」の一環で行われてきた。2009年に政権を失った後、当時の谷垣禎一総裁のもとで広報本部長に就任したのは、現在東京都知事の小池百合子氏。キャスター出身で発信はもともと得意だったが、与党時代のように注目が集まらず、さまざまな打ち出し方を模索。当時は、現在のXが「ツイッター」として世に出始めたころで、ツイッターを始めたばかりの小池氏に取材に行くと「こちらの発信に反応あるもの、全然ないものがある。受け手のニーズというか、今有権者が何を知りたいか知ることができる、いいアンテナ」と、話していた。
また、党の機関誌「自由民主」は、小泉進次郎防衛相が新人議員時代に党の新聞局次長に就任した際に、紙面デザインを一新。「新聞ぐらい変えられずに自民党は変えられない」として、題字を含め公募した中から紙面デザインを決めた。「自」の文字をサムアップに見立てた現在の題字は、この時に生まれた。当時、進次郎氏は「野党なんだし、何事もチャレンジ。外見は変わったが中身は変わらないと言われないようにしたい」と述べていたが、貴子氏は今回、機関誌の文字のフォントを変えるなど、リニューアルを進める。
広報は、どの世界でも相手に伝わって初めて成立する世界。日本政治では近年、時代の流れに乗った広報戦略を続けてきた参政党や国民民主党が幅広い層に刺さる形で勢力を伸ばし、そうしたトレンドに乗り遅れまいと、自民党だけでなく立憲民主党など既成政党のSNS強化が続いている。
貴子氏は、自身のXを使ったユーザーへの質問や、第三者の発信内容に対する検証など、独自の発信も行う。党内では「試行錯誤」とシビアな見方がある一方で、「過去イチ、はまり役」と評する声も聴いた。今後の貴子氏の発信に注目したい。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


