「都外ナンバーは対象外」の抜け穴がふさがれる


広告トラック規制で、街中の風景も変わるでしょうか?(写真はイメージです)
広告トラック規制で、街中の風景も変わるでしょうか?(写真はイメージです)

周囲に大音量を振りまきながら、新宿や渋谷などの繁華街を走行するピンクや蛍光色の「広告トラック」。これらについて東京都が規制を強化する方針を固めた。

これまで、トラックに大型広告を掲示する「広告宣伝車」には、東京屋外広告協会による「デザイン審査」が行われていたが、対象は都内ナンバーの車に限られていた。これを、”都内を走行する全ての車両”に拡大することで、事実上、ド派手な広告トラックは都内を走行できなくなる。「都の屋外広告物条例の施行規則を改正して、これに対応する」(都の担当者)という。

都議会の質疑で出たこの話題を読売新聞が報じると、「広告トラック」が一時Twitterでトレンド入り。SNSやニュースのコメント欄を見る限り、この方向性は消費者からはおおむね歓迎されているようだ。


なぜ、大都市は広告トラックだらけになったのか?


自宅や職場の立地上、日常的に新宿周辺エリアを出歩いているが、1日に何度もホストクラブやキャバクラ店など風俗営業を宣伝する広告トラックを目にする。渋谷や池袋などの、歓楽街を擁する大都市も同様の状況のようだ。

数カ月前、福岡市に行く機会があったが、そこでもホストクラブの広告トラックが目立っていた。広告トラックの氾濫は、もはや東京の大都市だけに限らないようだ。

筆者は2017年から2021年までの5年間、東京から離れていたが、その間に東京は様変わりした。東京オリンピックの開催も後押しとなり、都市開発が急速に進んだことはもちろんだが、コンビニが成人雑誌を置かなくなったり、電車内から週刊誌の中づり広告が激減したりと、都市の「健全化」も同時に進んできた。

ところが、広告トラックに関しては、トレンドに逆行するような動きが起きていたのだ。そもそも、歓楽街にある風俗店などの看板は、東京五輪の開催決定後も、縮小するどころか、周辺エリアまでどんどん拡張していた。その延長線上に広告トラックの活用があったと考えられる。


渋谷のスクランブル交差点
渋谷のスクランブル交差点

実際には、東京都は東京都屋外広告物条例などにより、広告トラックのデザイン規制を行ってきた。しかし、デザイン審査の対象は都内のナンバーに限定されて、都外ナンバーは対象外だった。つまり東京都以外のナンバーの広告車両が都内を走るぶんには審査対象にならず、これが抜け道になり、実質的には無法状態になっていたといわれる。

実際、トラックの電光表示装置などで映像を映し出すものなど、運転者の注意力を著しく低下させるおそれのある広告物などは禁止されていたが、当たり前のように都内を走行していた。

広告トラックは、走行費用、デザイン費、といったコストはかかるが、屋外広告の媒体費が高く、利用者数の多い繁華街においては、広告トラックを活用することには、費用対効果の面でメリットがあると見てよいだろう。また、看板のような静止型の広告と比べて、商圏にいる人々に効率的に訴求することもできるという点でも、優位性がある。


広告トラックが問題になる理由


歌舞伎町で外国人観光客がホストクラブやキャバクラの看板を、物珍しそうに撮影しているのを何度か目にしたことがある。たしかに、海外でこうした看板を見かけたことはない。

一方で、多くの日本人(というより、「東京などの大都市に居住、通勤する人たち」と言うべきか)は、こうした広告に見慣れてしまっており、「不適切ではないか?」という疑問も抱きにくくなっている。

2019年に公開されたアニメ映画『天気の子』の作品中に、実在する風俗系求人サイトの広告トラックが登場してネット上で多少の物議を醸したことがあったが、逆に言えば、制作側も、大半の観客も、この広告を問題とはしていなかったと言えるだろう。

広告表現に対する受容性や規制は国や地域によって異なっており、「日本は遅れている」とは一概には言い切れない。しかしながら、グローバル化が進み、多国籍、多民族の人々が日本各地に集まるようになった現在では、これまでにない配慮が必要になっているというのも、また事実だ。

今回の規制強化は、市民からの苦情がきっかけになっているが、表現の問題以外にも、騒音や交通面での問題も含まれている。

表現の自由は尊重されるべきであるが、路上のような公共の場においては「見たくない」、「聞きたくない」という人の権利の方が優先されるべきであろう。

また、広告トラックの騒音を問題視する住民や来訪者も少なくない。これについても「拡声機暴騒音規制条例」によって、音量規制がされている。こうしたことを考え合わせると、今回の規制強化は、「満を持して」決定されたと言ってもよいだろう。


望まれる都市の魅力を高める「広告トラック」


ここ数年、屋外広告も大きく変化、進歩している。外国人の観光スポットとして知られる渋谷のスクランブル交差点、およびその周辺エリアには、大型モニターが増え、まさにサイバーシティ東京を象徴するような都市景観となっている。

新宿においても、新宿東宝ビル8階から突き出したゴジラヘッドや、「3D巨大猫」で話題になった、新宿東口の3D屋外広告「クロス新宿ビジョン」など、エンターテインメント感満載の「屋外広告」が設置されている。

いまは風俗系に占領されてしまっている広告トラックにおいても、2012年に映画『貞子3D』の宣伝として「巨大貞子」を乗せたトラックを走らせて、大きな話題になったりと、過去に面白い展開も見られる。

広告トラックではないが、都営バスの車体のラッピング広告では、タイヤをカメラのレンズに見立てたヨドバシカメラの広告が掲出されている。

車両を活用した広告は、アイデア次第で面白い展開がいくらでもできるはずだ。

ヨーロッパの都市を歩くと、整然とした都市景観に憧れを感じもするし、日本においても景観条例によって厳しく規制された京都のような古都の街並みに安らぎを感じたりもする。しかしながら、古いものと最先端のものが混然一体となりながら、変幻自在に姿を変えていくところが、他国にはない、日本の大都市の魅力であるとも思う。

ルールを守りながらも、創意工夫を凝らして、面白い媒体や表現を開発して、街行く人々を楽しませてもらいたいし、規制を行う自治体側も、それを実現するような適正な規制が行われていくことを望みたい。

【西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授】