新型コロナウイルスの感染拡大が世界中で続いている。医師で作家の鎌田實さん(71)が、日本の置かれた現状を分析し、感染予防としての手だて、未知のウイルスとどう向き合っていくべきか、今後の課題を語った。

医療崩壊させないことを前提にしたPCR検査の拡充、政治リーダーの冷静なかじ取りと市民1人1人の予防策の徹底が急務だ。

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新型コロナウイルスの致死率を見てみましょう。14日現在、全世界で14万2584人が感染、うち5395人が死亡しており致死率は約3・8%です。日本国内に限っては1482人が感染、29人が亡くなりました。日本の致死率は約2%で世界平均より2%近く下回っているのが現状です。

季節性のインフルエンザの致死率は0・1%です、SARS(9%)やMERS(35%)と比べても低いデータであることが分かります。一方で、最近になって感染拡大しているイタリアでは2万1157人が感染、1441人が死亡し、致死率が約6・8%と突出し、医療崩壊が起きていることが考えられます。

新型コロナウイルスの感染力については、インフルエンザよりも強いと考えた方が良いでしょう。WHOは1人の感染者から感染する人数が2・2人という見解を示していますが、アメリカのロスアラモス研究所は4・7~6・6人という見方をしています。インフルエンザが1・32人なので、感染力は強いとみられます。

現在の日本では、医療現場の余力はありますが、クラスター感染が顕著な愛知県では、ベッド数が足りなくなってきています。兵庫県では地域の中核病院で医師に感染者が出て救急と外来診療を止めている状態です。日本でも看護師や介護士、医師が感染し始めています。医療崩壊が起こらないかとても心配です。

日本国内で、これ以上の感染拡大を防ぐには、医療崩壊させないようにしながら、PCR検査をもっと医師の裁量で実施できるようにすることが効果的です。実際に和歌山県ではPCR検査を積極的に使って収束させています。

軽症が約8割とされ、自然治癒する人もいます。日本では万一重症化した場合でも治療ができる施設が整っています。重症者や高齢者、持病のある人を優先的にリスクから守っていくためにも、軽症の患者さんを自宅待機してもらうという方法も必要でしょう。自宅待機でも、陽性かどうかを分かっているほうが家族に感染させる率が低いはずです。それではパニックになる、という意見もありますが、インフルエンザではそれができています。

レストラン、映画、イベント関係者の生活を守るためにも、迅速検査キットを使えるようになったら疫学的調査も考えてほしいです。疑陰性や偽陽性の問題(一度陰性と診断されても次の検査で陽性反応が出る)はありますが、陽性率が低ければ水際対策を強化する。高ければインフルエンザに近い対応にして公衆衛生の注意喚起を高めなければいけません。感染症対策を講じながら、学校や経済活動を安易に止めないように防疫と社会の動きが共存する方法を模索する必要があります。全国的な休校は効果がさほど期待できないので早くやめるべきでしょう。

予防ワクチン、治療薬はSARSの時で9カ月かかりましたが、世界が総力を挙げて取り組むことで今回もできると思います。そうなれば劇的に今の危機的な状況も変わってきます。

あやしいと思ったら堂々と検査を受けられやすくして、陽性だったらまず自宅で休むことにする。そんな意識改革が必要です。そろそろテレビは陽性患者を追い掛けすぎないようにしてほしい。

家庭でできることは、手洗いやアルコール消毒、換気を心がけていくことです。マスクは無理にしなくてもいい。人にうつさないというエチケットや、鼻や喉の線毛の湿潤を保つことでウイルスから粘膜を守る効果はあります。品薄になっていますが、マスクが手元にあるようでしたら、着用したほうがいいと思います。(聞き手・上岡豊)

◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日生まれ、東京都出身。東京医科歯科大医学部卒。長野・諏訪中央病院院長で「健康づくり運動」を実践。脳卒中死亡率の高かった長野県の長寿日本一に貢献した。04年からイラク支援を始め、小児病院へ薬を届けたり北部の難民キャンプ診察も続ける。コメンテーターなどで活躍する他、文化放送「鎌田實×村上信夫 日曜はがんばらない」(日曜午前10時)に出演中。