北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(失踪当時13)の父で6月5日に死去した横田滋さん(享年87)のお別れの会と、拉致問題解決に向けた「国民大集会」が24日、東京都内で行われた。菅義偉首相、自身の政権での解決を訴え続けた安倍晋三前首相らが出席した。拉致被害者家族の高齢化が進み、望み続けた子供との再会を果たせずに亡くなったのは、滋さんだけではない。問題の解決が急がれる実態が、あらためて浮き彫りになった。

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正午から営まれたお別れの会には、官房長官時代に拉致担当を務めた菅首相、首相在任中の解決を口にし続けた安倍氏らが参列。2人は献花台に白いカーネーションを手向け、滋さんの遺影を見つめた。

首相は「ご存命の間にめぐみさんとの再会を果たすことができなかったことはまさに痛恨の極み。政府として、一政治家として大変申し訳ない」と陳謝。安倍氏も「断腸の思いだ」と述べた。めぐみさんの母早紀江さん(84)は「力を尽くし、必ず(拉致被害者の救出)実現へ向けて頑張っていただきたい。それだけを信じて」と語りかけた。

出席が関係者に限られたお別れの会に続き、同じ場所で一般の人も参加可能な国民大集会が開かれた。ただ今年はコロナ禍が活動に影を落とした。同集会は毎年春と秋に開かれてきたが、今年は今回が初めてだ。

早紀江さんはここの場でも気丈に、切々と訴えた。「(滋さんは)家族を大切にする人でした。めぐみは(滋さんが)出勤する時はいつも甘栗を買って来て、とせがんだ」と、滋さんと幼いめぐみさんのエピソードを語った。「30年、40年たっても何にも分からないで虐げられている子どもたち。声が出せない、頑張って待っているしかないんだから早く助けてという声が毎日聞こえて来ます」と、声を絞り出した。

被害者家族や関係者の高齢化は進んでいる。滋さんだけでなく、今年2月3日には有本恵子さん(不明当時23)の母、有本嘉代子さんが94歳で、7月10日には帰国した地村保志さんの父、地村保さんが93歳で、亡くなった。「親世代」で存命なのは、有本さんの父・明弘さん(91)と早紀江さんだけ。家族会代表の飯塚繁雄さん(82)はお別れの会であいさつしたが、体調不良で大集会は欠席した。

早紀江さんは「命のある限り頑張る」と口元を引き締めたが、歴代政権が解決できないまま、時間だけが過ぎてきた。菅首相は「あらゆるチャンスを逃すことなく活路を切り開く」と訴えたが、残された時間は少ない。【大上悟】