東京で6月下旬から史上最長9日連続「猛暑日」(35度以上)を記録するなど、暑い日が続いた2022年。残暑も厳しい中、島しょ部を除く関東の海沿い市区町村で唯一、過去に1度も「猛暑日のない街」として注目されているのが千葉県勝浦市だ。涼しさを求める観光客が増加しただけでなく、勝浦市や観光協会のホームページのページビュー数も急増中。コロナ感染拡大が続くこともあり、移住やワーケーションなどに関する問い合わせも増加傾向にある。首都圏でもっとも人口の少ない市は、人気タウンになる可能性を秘めている。
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東京からJR特急「わかしお」で約1時間半。海や山が共存する魅力的な勝浦市は今、「涼しい街」として注目が集まっている。今夏、「涼風、勝浦」のキャッチコピーのポスターを都内各所に掲示した。勝浦市観光協会の担当者は「今年は6月から内陸の猛暑日が続いた。勝浦は夏は涼しく、冬は暖かい。過ごしやすい気候、エメラルドグリーンの海や景観もあるので、住みやすい町でもあります」と、観光や移住地としてアピールした。
勝浦市で気象庁の観測が始まったのは1906年(明39)。過去の最高気温は1924年8月23日の34・9度と、1度も猛暑日(35度以上)がない。東京で今年6月25日から史上最多9日連続猛暑日を記録した同期間でも、最高気温は27・7度。東京の平均最高気温35・7度に対し、同26・5度と約10度違う。今夏、もっとも高かったのも8月24日の32・1度だ。
勝浦市へのホームページ(HP)ページビュー数も夏休みが始まった7月20日から8月19日までで1万6264。暑さが厳しくなる直前の5月20日からの1カ月が2098だっただけに、約8倍。関心は高い。市観光商工課の大森基彦課長(57)は「夏の海が一番かもしれませんが、海中公園などの観光施設や、景観、朝市も楽しんでいただけると思います。神社などのパワースポットも多いんです」。有数のカツオ漁獲高を誇る勝浦港で水揚げされた海産物や、ご当地フードの勝浦タンタンメンなどの食に加え、山間部を含めたキャンプやサイクリングなどアクティビティーも豊富だ。
「実は、冬も暖かいんです。真冬日(日最高気温が0度未満)は過去1日しかない」。最高気温がマイナス0・3度だった1967年(昭42)2月12日のみだ。年間通した過ごしやすさを売りに、人口1万6218人(7月末現在)と過疎化が進む市の人口増にも期待が集まっている。
コロナ禍でテレワークなどを推奨する企業が増加していることも踏まえ、「移住支援金制度」なども充実させている。市HPによると、東京、神奈川、埼玉在住の都内23区勤務者を対象に、1世帯当たり最大100万円を支給(単身者は60万円)。「問い合わせ件数は増えております。休日も過ごしやすく、リフレッシュして仕事を出来るかと思いますので、確かなデータはないのですが『仕事の能率が上がる』のではないでしょうか」。人口流出を防ぐために、40歳以下の夫婦の住宅取得または賃貸に対しては1世帯最大40万円を支給。さらに夫か妻のいずれかが転入した場合には20万が加算される奨励金も確立している。
勝浦市の50代男性は「天然の扇風機のような風が吹くのでエアコンはほとんど使わない。交通網も整備されて、東京に出るのも電車、バス、車で、そんなに遠くは感じません」。魅力の詰まった「猛暑日のない街」を要チェックだ。【鎌田直秀】
◆勝浦市 千葉県の南東部に位置する。1889年(明22)に勝浦村として誕生し、1958年(昭33)に千葉県内18番目の市に。海域公園や海岸部は南房総国定公園に指定。関東屈指の水質で環境省の日本の渚百選に選定される守谷海水浴場、鵜原海水浴場などを含むリゾート地。遠見岬神社で春に開催される「かつうらビッグひなまつり」や、日本三大朝市の1つ「勝浦朝市」などのイベントも有名。勝浦漁港は銚子漁港に次ぐ漁獲量。那智勝浦町(和歌山)勝浦町(徳島)は「全国勝浦ネットワーク」を結ぶ友好都市。市の木はアジサイ。人口は1万6218人。主な出身著名人はプロ野球巨人の丸佳浩外野手、政治家の自民党森英介衆院議員ら。
■低い周辺の海水温&リアス式海岸の恩恵あり
なぜ勝浦市は涼しいのか? 気象庁の銚子地方気象台によれば「周辺の海面の水温が低いこと。さらに、そこの冷たい風が陸地に入りやすい地形になっていることが原因となっています」と説明した。
「千葉の太平洋沿岸は沖合の黒潮に比べて、沿岸近くは水温が低い。海面水温は、8月の平年値で沖合が約24度に対して、沿岸は約21度。南寄りの風が吹くんですが、勝浦は湾のような形になっていますし、目の前が崖になっていることもあって、暖かい風も冷たい水温の部分を通って風が冷えてから陸に吹いていきます」。鵜原理想郷と呼ばれるリアス式海岸の断崖もせりだしており、暖かい風が直接、陸地に届かない地形の影響も関与する。
「勝浦は土地の形状も平地が多くて森林も多いんです。銚子も海水温や土地の形状は同じような感じなのですが、先端にあるので、北風か南風によって気温が上がることがあります」。アスファルトが少なくヒートアイランド現象などは皆無で、夜間に1度しっかり気温が下がる。緑豊富な平地が続き、熱がこもらない地形の影響も大きい。
海水温も年々高くなっている地球温暖化の影響も心配されるが、今後もずっと涼しさは続くのか-。「潮の流れ次第なところもありますが、海面水温が上がっていることは間違いないので、今後も勝浦が35度を超えないかという予想をすることは難しいです」。